レストア
注意!
オークションの無断リンクがあるので、仕様は非公開です。
2007.7.17作成
2007.9.23修正
2010.10.5追記

日本電業(Belcom) Liner2

☆周波数・モード非公開
☆定格出力非公開
☆マイクインピーダンス非公開
☆受信方式非公開
☆受信感度非公開
☆通過帯域幅非公開
☆電源非公開
☆消費電力非公開
☆寸法・重量非公開
☆発売年・定価非公開

リグの説明

モービル機として設計されたようですが、国内で初めて144MHzSSBが運用できるトランシーバと思われます。将来はFMからSSBへ移行すると予測して設計されたのでしょう。
翌年の73年にトリオがTS-700を、さらに74年にアイコムがIC-201・ヤエスがFT-220を発売した記録がありましたが、こちらは全て常置場所運用向けの大型機でした。
このリグはVFOを内蔵せず、水晶シンセサイザ+VXOで周波数を変化させます。144.100-144.330MHzを10KHzステップでロータリースイッチを用いて切り替え、さらにVXOで±約6KHz可変させます。厳密に言えば、144.094-144.336KHzをカバーするわけです。
モービルでVFOのツマミを回すのは面倒ですし、温度・振動に強い安定したVFOが難しかったからでしょう。当時としては最善の方法でしょうが、バンド内を連続してワッチする常置場所の運用には難点があったと思います。
結論を書きますと、送信部に不具合が見つかり『使えないリグ』でした。ある方からも同様の情報をいただいており、このシリーズに見られる欠陥?ではないかと思われます。
上面図 下面図

発振部

周波数構成を右図でご紹介します。
11MHz台の水晶4個と8MHz台の水晶6個で作られた発振出力をミックスし、20MHz台の発振出力を10KHzステップ・24チャンネルで得ます。
送信は、これに7.8MHzのSSB信号をミックスして28MHz台の信号を作り、さらに115.6MHzの発振回路(VXO)出力をミックスして144MHz出力を得ます。
つまり、28MHzの送信機にトランスバータをつけたようなものです。
116MHzはVXOで±6KHz可変できるので、理屈上はチャンネル間の周波数を埋めて連続カバーします。
受信は144MHz信号に115.6MHzおよび20MHz台の出力を信号にミックスし、7.8MHzの中間周波増幅後に検波します。
さて、実際の周波数を調べると20MHz台の出力周波数が約2.2KHz低めです。回路図にある11MHz台周波数調整用のトリマCV12が省略されており、調整できません。一方、116MHz出力は約2KHz高くなっており、最終出力の周波数はほぼ合っていました。
実用上問題ありませんので、116MHzの発振周波数調整(VXOになっている)のみ行いました。コストダウンを図ったものと思います。
8MHz台の水晶が1個だけアクティビティが低くなっていました。8.9065MHzの水晶を使用する周波数を受信すると、S1つくらいメータの振れが小さくなります。これは我慢します。

受信部

受信は出来ますが周波数の低目が感度が良く、高くなるほど悪化傾向でした。高周波増幅回路と28MHz増幅回路を調整すると、かなり改善されました。調整前のデータは省略します。
調整後 S特性(f=144.2MHz)

ノイズブランカをONにすると、メータの振れが2つくらい少なくなりました(動作はしているようですが)。
プリントパターンに再ハンダを行ったところ、正常に動作するようになりました。ハンダ付け箇所が劣化していたようです。

送信部

いろいろ問題が発生しました。解決できた点もあるのですが・・・。以下列記します。
その1
テストSWを押してチューン状態にすると、5.2-6.0W出ていました。コイルを調整すると10W、まあまあかな、とALCレベル調整を解除すると12Wくらい出ました。と同時に連続送信して1分たたないうちに徐々に出力が約8Wまで低下することに気づきました。受信に戻し約20秒くらい待つと再び12W出ますが、その後はやはり同様でした。これはどこか発熱しているかな?と送信後に各デバイスに触れてみても場所が特定できません。
このリグは、トランジスタの放熱ヒートシンクが小さく、ファイナル部は1.6mm厚のアルミ板を曲げただけで、これをシャーシにネジ止めしています。SSB専用機ですから、平均電力がFMに比べ少ないので放熱は重視しなかったのでしょうか。連続でフルパワーを出すこと自体が誤っているのでしょうか。
急冷剤をスプレーし怪しいパーツを捜したところ、144MHzのプリドライバ2SC730(ケースはTC-5)の発熱が原因と判明しました。基板の裏側にあるヒートシンクを確認したところ、驚くほど小型のものでした。ヒートシンクは基板上のネジでケースと接触していますが、接触面にシリコングリスがありません。(右写真)
放熱が不十分と考え、シリコングリスを塗布してネジ止めしたら出力が安定しました。
その2
トリマを回すとある箇所で急にパワーが増大する現象に気づきました。トリマの不良があるようで、ドライバ段からファイナル段までのセラミックトリマ8個を全て交換しました。
その3
幾分改善されたようですが、まだパワー計が不連続な傾向を示します。スペアナで見ると、±20-30MHzで多数のスプリアスが出ています。発振しているようで、トリマを少しずらすと止まりますが、いつ発振するかもわからず感心しません。
あれこれ検討した結果、ドライバTrとファイナルTrの電源とプリントパターン表のGND面に0.01uFのパスコンを7個追加したら止まりました。電源ラインにはパスコンとして0.001uFのコンデンサ(回路図では貫通コンデンサのように記述されていますが、一方だけにリードがあります)が取り付けられていますが、全て基板裏面でGNDに落ちており、基板表面ではGNDに接続されていません。(左図)
基板は両面基板ですが、ベークのスルーホールの無い基板です。表面と裏面のGNDは、部品で両面にハンダ付けされている箇所のみで接続されており、必ずしも同電位ではありません。裏面GND-表面GND間の高周波インピーダンスを低くする必要があったと考えられます。
その4
さらに難題が・・・・・。近接周波数2箇所でスプリアスが発生します。(右写真)
-40dB前後ではいただけません。
  f=144.200MHz、X:1MHz/div、Y:10dB/div
スペアナの分解能を小さくしたら、近接スプリアスに気づきました。144MHz台の前後ですが、144.100MHzで約±1.6MHz、133.320MHzで±0.7MHzくらいに見え、周波数が高いほど元の成分に接近します。
当初は28MHz帯の5倍スプリアスの影響と考えていましたが、28MHz帯の4倍スプリアスと115.6MHz帯との差の影響、というレポートをいただきました。前者を説A、後者を説Bとし、整理しました。
送信周波数 説A 説B
144.100MHz 28.50 X5 = 142.50MHz 115.60 - (28.50 X4) = 1.60MHz
144.10 - 1.60 = 142.50MHz
144.10 x2 -(28.50 X5) =145.70MHz 115.60 - (28.50 X4) = 1.60MHz
144.10 + 1.60 = 145.70MHz
144.320MHz 28.72 X5 = 143.60MHz 115.60 - (28.72 X4) = 0.72MHz
144.32 - 0.72 = 143.60MHz
144.32 x2 -(28.72 X5) =145.04MHz 115.60 - (28.72 X4) = 0.72MHz
144.32 + 0.72 = 145.04MHz
計算してみると、何のことはない同じです。144MHz帯をfo、28MHz帯をfcとすると、局発の116MHz帯はfo-fcです。
説Aでは5fc、2fo-5fcとなります。
説Bはfo-((fo-fc)-fc X4)とfo+((fo-fc)-fc X4)ですが、計算すると
   fo-((fo-fc)-fc X4) = fo-(fo-5fc) = 5fc
   fo+((fo-fc)-fc X4) = fo+(fo-5fc) = 2fo-5fc
と同じ結果になります。説Aで考えて差し支えありません。
28MHz出力を観察しましたが、5倍スプリアスは-60dB以下(ノイズレベル)で異常ではありません。144MHzのドライブ・ファイナル回路の影響を考え、これらの電源を切断して動作を止めても変化なし、ミキサー出力をスペアナで観察すると、ここで不具合が出ていることがわかりました。
 ミキサー3SK35のゲート入力にトリマを入れて補正を試み(LINER2 DXで適用されている)、さらにミキサー出力の3段コイルを繰り返し調整しましたが、-45dBまでが精一杯です。
結局ミキサーへの過大入力が原因、という結論に至りました。ミキサー前に28MHz信号をTr6の2SC710で増幅していますが、この出力を絞りました。Tr6のベース入力コンデンサC36を100pF(回路図では47pF)から33pFに変更するとパワーは約4Wまで落ちますが、近接スプリアスは-60dBまで改善されました。(右写真)

40pFトリマは入手時に入っていた
Liner2と後継機種のLiner2DXの回路構成を比較してみました。デバイスの違いもありますが、144MHz変換後の電力増幅はLiner2では4段ですが、Liner2DXは5段です。Liner2DXは144MHz変換までの信号レベルを低く抑えてスプリアスを減らし、ドライバとファイナル増幅に余裕を持たせたと考えられます。そう思うと、Liner2はレベル配分に無理があったのでは。
パワー10Wを得たいため、無理をしてミキサーでオーバードライブした結果、144MHzで10W出たが『子供』も大きくなってしまった・・・・というところでしょう。
Liner2にも同じ回路構成にしたいのですが、内部のスペースに余裕がありません。28→144へのミキサー、プリドライブ、ファイナル、出力切り替え部が4枚の基板に分かれており、それぞれシャーシで区切られています。ちょっと回路を追加、とはいきません。(上の上面写真をご参照下さい)
ここまでたどり着くのに時間を要したため、これ以上手間をかける意欲がなくなりました。4WのQRP機としますHi。

その他

VHF SSBがこれから・・・という過渡期のトランシーバーで、気になる点・回路図と異なる点が多数見られます。過去のオーナーが手を加えたと思われないので、「設計起因」と現時点で記しておきます。
  1. ファイナルとドライバのベース電圧が安定化されていません。回路図ではツェナー電圧で安定化した9Vが印加されていますが・・・。面倒なので、そのままにしていますがHi。
  2. プリドライバの2SC730のベースに接続されたダイオードD11(1S990)が、トランジスタから離れています。熱によるバイアス変動を抑えるダイオードですが、トランジスタの近傍に置き、シリコングリスを塗布しました。
  3. 144MHzの高周波信号を扱うので、両面基板の上下GNDを結ぶ穴をあけてジャンパー線を追加すると動作が安定すると思います。メーカでは作業が増えてコストアップになるのでやらなかった可能性があります。
  4. 高周波信号の流れるトリマが全て安価なセラミックトリマですが、ファイナル部とアンテナ端子にあるトラップ(2倍高調波対策)のトリマくらいはエアトリマを用いたいところです。10W出すには不安があります。