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注意!
オークションの無断リンクがあるので、仕様は非公開です。
2010.6.14作成
2010.10.5追記

井上電機 IC-30

☆周波数・モード非公開
☆定格出力非公開
☆最大周波数偏移非公開
☆送信周波数構成非公開
☆受信周波数構成非公開
☆マイクインピーダンス非公開
☆受信方式非公開
☆受信感度非公開
☆通過帯域幅非公開
☆電源非公開
☆消費電力非公開
☆寸法・重量非公開
☆発売年・定価非公開

リグの説明

井上電機(現アイコム)初の430MHz FMトランシーバです。144MHzのIC-20、50MHzのIC-60と同一デザインで、最後に発売されました。
この紹介を書く段階で気づいたのですが、マイクがローインピーダンスでした。IC-20、IC-60はハイインピーダンス10Kオームです。マイクの仕様が切り替わる時期だったようです。
実装水晶は、出荷時オリジナルの3チャンネル(431.88、432.00、432.12MHz)の他に7チャンネル入っていました。現バンドプランで使用出来るのは8チャンネルですが、433.00MHz以外は431・432MHz台ばかりで実用には?です。まあ、我慢します。
チャンネル表示は当時のチャンネルプランのチャンネル番号らしく、16・19・22・・・34・37と120KHzステップで書かれています。明らかにわかりにくいのですが、現状通りとしました。
上面図 下面図
上の写真は、ユニット2個のシールドカバーを外した状態です。
取扱説明書は、アイコムのWebからダウンロードしました。回路図は添付されていますが、各基板の回路図と結線図に分かれており、読みづらく感じました。また一部配線が消えており、記載ミスもあります。

発振部その他

送信回路は約18MHzで発振し、X2・X2・X2・X3と24逓倍して430MHzを得ます。受信回路は23MHzで発振し、X2・X2・X3と12逓倍して420MHzを得ます。
送信は逓倍回路のコアを調整した後、周波数をトリマで調整しました。X4の71MHz台のテストポイントで周波数をチェック、クリチカルですが調整出来ました。
受信回路は発振部のエミッタにテストポントがあり、23MHz台で計測します。1チャンネルだけ周波数が不安定で調整しきれません。残り9チャンネルのみ周波数を合わせ込みました。
アンテナのM型コネクタのガタツキが大きく、SGを接続する同軸に触れるとSメータの振れが変動します。この時代のコネクタに見られる症状ですが、新品のコネクタに交換しました。
また、電源コードが手直しされていましたが、ギボシ端子がいずれもオスでした。逆接続を防ぐとともに、経年変化も顕著なので1.25SQの新品コードに変更し、端子も交換しました。

受信部

受信は出来るものの、20dBuの信号を入力してメータがS1振れる程度で、感度が低下していました。
高周波受信ユニットU-18と中間周波以降の受信ユニットU-15のトリマ・コイルを一通り調整しましたが、0dBu入力でもノイズが混じりS/N15dB程度で今一歩です。
その後、送信の発振・逓倍回路と受信の第一局発回路の入ったユニットU-16の中に、10.69MHzの中間増幅があるのを見落としていたので調整、S/Nが6dB程度改善されました。
最後に、アンテナコネクタに直結した430MHzのバンドパスフィルタ(送受信共用)を調整したら、ようやくS/N30dBをクリアするようになりました。
周波数帯域が狭いので、受信性能の周波数変化のデータは省略します。
455KHzのフィルタは広帯域なCFM455Bですが、ナロー化せず現状通りとしました。フィルタ出力に中間周波増幅部のゲインを調整するボリュームR5があり、20dBu入力でS9を示すように調整しました。

送信部

マイクアンプ周辺のマイラーコンデンサの劣化が外観で確認出来たので、交換しました。電解コンデンサも手持ちがある分だけ同時に交換しました。
マイクゲインを調整する半固定ボリュームが接触不良で、変調がかかりません。手持ちのボリュームと交換しました。
パワーは4W出ましたが、不十分です。ドライブユニットU-16を調整、トリマを回すと不規則に出力が変動するので後段のトリマ4個を交換しました。
ドライブユニットは調整が容易ですが、ファイナルユニットU-19は厄介でした。右写真はシールドケースを外した状態です。
初段のTr 2SC911と2段目のTr 2SC975の出力トリマ計4個は、ユニットと本体の間に調整箇所があるので、ユニットを外して調整しました。
一方、初段の入力と最終段のTr 2SC1338の出力のピストントリマ3個・バンドパスフィルタのピストントリマ2個は、ユニットを外して調整すると本体と組み込んだ後に調整がずれます。
本体とネジ止めし、GNDの電位差を減らしてから調整します。
シールドケースを外した様子を写真に示しますが、ケーブル類が非常に入り組んだ狭いスペースに組み立ててあり、配線が邪魔で調整ドライバが入らず、調整に困りました。
ここまでで、出力は9.5Wでした。
さて、スプリアス特性を測定したら、2倍の860MHzが-50dBしかありません。
ユニットをじっくりチェック、ファイナル2SC1338の入力コンデンサが割れていました。近くのケミコンもハンダのヤニで汚れており(組立・修理時のものでしょう)、劣化しているかもしれません。交換しました。
また、バンドパスフィルタのケースとファイナル部のGNDが同軸ケーブル以外で接続されておらず、電位差が生じている可能性があります。フィルタのケースと基板のGNDを同軸のシールド線で結びました。
さらに驚いたことに、ここから他のユニットへ電源を供給しますが、+側の配線はあっても-側の配線がありません。-はシャーシと同軸のシールド線を用いているのです。
ファイナルユニットを除く回路なので電流は多くありませんが、シャーシに全電流を流すことは好ましくありません(オーディオマニアなら分かるでしょう)。ファイナルユニットのGND面から配線を1本追加しました。
これらを写真の矢印部に示します。これで仮組立するとスプリアスは-60dBまで改善されますが、まだ不十分です。
ファイナルユニットを押すと、スプリアスが減少することがわかりました。シールドケースとヒートシンクの隙間が原因のようです。シールドケースを手で曲げて隙間を無くしネジ止め、ファイナルユニットと本体ケースは分離したままでスプリアスが-60dBであることを確認しました。
ところが、本体カバーをネジ止めすると-50dBまで戻ってしまいます。ネジ止めは左右それぞれ2箇所ありますが、片側2箇所のみ固定して-60dBであっても、もう片方のネジを締めていくと-50dBになります
原因がわかりました。ファイナルユニットのシールドケースはヒートシンクよりも1mm程度長く、カバーをネジ止めした時にシールドケースが歪み、ヒートシンクとの間に隙間が出来るからです。  (右写真)
シールドケースの両端をヤスリで削り、ヒートシンクの間に台所用のアルミテープを貼って隙間を減らしました。元々テープを貼った跡があり、メーカー出荷時もテープで押さえていたのでしょうが、歪みの元を対策せねばなりません。
アルミテープは裏面にノリがついているので、直流的には絶縁されています。しかし、ハサミで切断すると「バリ」が発生し、テープとシールドケースは短絡するので心配はいりません。
これで解決、今度はネジ止めの影響もなく、2倍高調波は-70dB以下です。
   X:200MHz/div、 Y:10dB/div、 F=432.48MHz
パワーも約11W出るようになりました。各種改善で動作が安定になったためと推測します。
送信はナロー化しておきます。マイクゲインをボリュームR22で、デビエーションをボリュームR25で調整すればOKです。

その他

最終チェック・クリーニングの段階で、メータが完全に固定されていないことに気づきました。メータを押すと2-3mm程度奥へ動きます。
メータと裏のケース部の隙間が大きすぎるようです。クッション材があったのかも?でも見当たらないので、引戸用すきまテープを貼りました。ゴムほど固くなく、適度に圧縮させるので最適です。
アマチュア的アイデアですが、サラリーマン時代に試作品のパーツ固定でよく用いた方法です。
古いリグほど、分解・組立・調整に苦労します。設計された製品が製造段階で発生する不良・組立時間のロスや、修理サービスで分かった故障原因が設計にフィードバックされ、徐々に作りやすく故障しにくい製品を設計する技術が確立します。作り込むことで品質が安定になるわけです。
長くこの業界で生き残っているメーカーは、この技術の跡を読み取ることが出来ます。
チップ部品化される直前のリグが、メンテナンスも比較的容易で、かつ現役で活躍出来るように感じます。ビギナーは、これらの時代のリグいじりからおすすめしたいですね。