それは楽器屋から始まった--1980年代後半
彼ら−音信不通になっている学生時代からのバンド仲間達−は今でも音楽を忘れずにいるのだろうか?
我々がいつもお世話になっていた元看板娘はまだ店におり、
「みんなときどき遊びに来る。していく話は昔の仲間、MTR、MSXパソコンとPCミュージック」
だという。
みんな音楽は忘れられない、しかし、いつまでも仲間達とばかり遊び回っていられないのだ。
いつのまにかヲヂサンと呼ばれる年代になってしまったかつての音楽少年達は、断片になってしまった自分の時間の中で、それでも音と暮らしたくて、もがいているのだった。
(ディスプレイ・記憶装置等別売り、本体のみ定価で29,800.〜200,000.台位まで。ディスプレイは通常のTVを使うものであり、RF !! とコンポジット、RGBが併用された。当時の8Bitマシンでは通常のTVをモニタに使うことはごく一般的であった。)MSXは"2"にVer.UPしてから他の8bitPCと比較してもその環境は整い、ゲームは言うに及ばず、WPやグラフィックなどのアプリケーションも一通り揃っており、それらの価格も競合機と比べて手の届きやすいものになっていた。
ちなみに当時のMSX2は動作周波数4MHzの8Bitチップ、Z80をCPUに持ち、メインメモリはMSXの8KBから拡張され、64KBとなっていた。MSXは統一規格と呼ばれ、当時としては画期的なことに、YAMAHA製のマシンで無くともこのシステムは完全に使用可能だったのだ。
(数値、単位は決して書き間違いではない)
全く互換のないマシンが乱立して鎬を削っていたなんて、今となっては想像もつかない世界だな。面白い発想のマシンはたくさんあったけどね。8bit機の場合、当時はホームパソコンなる範疇にくくられ、大抵のマシンが何がしかの音源を搭載しており、単体でも「音楽らしき事」をすることがどうにか可能だったのである。
そして、その指向性はAXやPC9801の屍を乗り越え、Windowsに引き継がれ、現在に至っているのだな。その代表がPSG(Programable Sound Generator)+BASIC上のMML(Music Macro Langage)という物である。
(当時は3.5’FDD:もちろん2DD、を持っていることすらステータスに近かった。仕事場では5'5MBのHDDユニットと8'FDDが活躍していた…数値は書き間違いではない。ちなみに仕事場のプリンタ基盤に取り付ける第2水準漢字ROMを求めて秋葉を彷徨したのもこの頃)
そんな頃、生産完了間近のSONY製F-900と言うマシンが廉く手に入ることになった。
このマシンはMSX2ながら256KBの巨大なメモリと2DD-FDDをなんと2基(しつこいが、数値は書き間違いではない)を本体に実装し、使い勝手の良いWP、簡易データベースをバンドルし、更に本体にスタックして使う専用ユニットにより画像処理−ビデオ画像編集、テロッピング、取り込み−等が出来ると言うMSX2の最後のあがきの様な重装備機であった。
今にして思えば、System/アプリケーションはROMカセットとはいえ、4MHz駆動の8Bit CPUに720KB×2の記憶装置でこれだけの事をやっていたのだから、無謀と言っても良い行動である。このマシン入手と同時にモデム(300bps!の最新型ですぜ!旦那:くどくとも数値は書き間違いではない)と憧れのYAMAHA MIDIインターフェイス+音源システムSFG-05も先のPanasonic用と併せて2セット購入した。
やはり、けた違いの表現力である。(と当時は本当に思った!)
PSGにしろ、オーディオユニットにしろ、どちらにしてもスタンドアロンなシステムである。データはそのマシン内で完結する。
MIDIは工夫によって拡張は殆ど限りが無いし、データはことMIDI経由で有ればどんなマシン−PCでなくても…元来楽器間の通信規格である−利用が可能になる。
当時は、まだGM等の統一規格が策定されていなかったので、異なるメーカーの音源ではデータに問題が出たのだが…その後SFG-05とコンパチブルの音源ユニットFB-01各1台とリズムマシンRX-21(共にYAMAHA製)をつないだ私のPCはどんどん楽器寄りに、様相としては古いSF映画に登場するコンピュータのごとく、はたまたメデューサの髪の様にズルズルとワイヤの束をまとった姿と化して行ったのであった。
(SFG-05、FB-01とも当時の最新鋭MIDIモジュールでFM音源同時8声を発音出来た)丁度ローランドがMT-32と言う新鋭ユニットを発売した頃である。デモンストレーションはその素晴らしい音に圧倒される物だったが、単体のMT-32は本体を見てもカタログを見てもどうやって動かしたら良いのか皆目見当が付かなかった。
この頃憧れの的だったMIDIインターフェイスをRoland MPU-401と言い、その仕様は現在のWindowsのMIDI入出力インターフェイスの標準として健在である。
いままでMSXに多種多様な拡張を施し、楽器、音源を追加しても実現できなかった完成度の高い音楽が1台の16Bit PCとこのセットだけで出来てしまうのである。それも至極簡単に…
YAMAHAのMSXシステムでは単体8声+8ch2台をつないでマスター、スレーブとした場合でも16声+16ch。それにリズムマシンは別にデータを起こしてデータレコーダからロードし、更に外部音源ユニットを接続した場合データ上の音色設定を工夫し、ユニゾンで違う音色を使用して厚みを出すと言った力技(ああ、書いているだけでうっとおしい…)が必要となる。
この場合マシンの背後はMIDI THRU BOX経由でケーブルがスパゲッティ状態となってしまう。
ミュージくんではPC本体に挿入したインターフェイスボードから引き出したMIDIケーブル1本をMT-32に接続するだけでMT-32の名の通り最大32声8ch+リズム楽器(ドラム・パーカッション)とケーブル1本の追加で外部音源用の1chを出力することが可能になる。
間違え易いのがこの「最大」32声と言う表現で、当時のLAと呼ばれる音源はFM音源等と違って32個の音の要素(パーシャルと言う)を持ち、通常はそれらを1〜4個組み合わせて音色を作り出すので、音楽的な音色を使用すると少なくとも2つ以上、多い音色では4個ものパーシャルが消費される。それでも10種以上のリアルな楽音とリズム楽器が奏でる音は内蔵のリバーブ(多少のノイズには目をつぶろう)とあいまって無敵のシステムだと、当時は思われた。
そんなわけで、最大発生音数は16以下と考えた方が無難である。(実際には16声の同時発生も難しかった)
嗚呼、懐かしきシングルタスクの古き良き時代。又、このみゅーじ君の添付ソフトでは、入力中に全パートの確認演奏をしながらデータをスクロールすることが出来ない等の問題もあり、兄貴分と言われるソフト「バラード」と2台目のMT-32を購入するに至った。
(凄い苦労だね、先人を敬いたまえ!)使い始めると最高だと思った物にも必ず、いろいろと不満が出て来るものである。
こうしてシステムアップを始めた頃「ミュージ郎」発売の情報を得る。
これはミュージくんのアッパーバージョンで、MT-32に更にPCM音源を積んだ物であると言う。
新しいユニットはデザインも一新されたCM-64。これ1台でLA音源+PCM音源最大64声(これも「最大」値である、お間違え無きよう)が使用できる。
Ver.UP料金15,000.は余りと言えば余りだと思ったが…ミュージくんユーザーにはこのソフトVer.UP料金の他にCM-64からMT-32の機能とSE(波風や銃声などのプリセットトーン)の部分を除いたCM-32Pが必要となる。(しかし、このシステムではVer.UPしたソフトに含まれるデモデータの一部、SE部分は発音しないのだ)その後CM-32Lと言うCM-64からPCM部分だけを省いたユニットも発売され、これとCM-32Pを組み合わせるとCM-64と同機能が実現する。全く無駄な出費は多いが、その後結局私のシステムのMT-32とこのCM-32Lとが入れ替わった。
しかし、ソフトに関してはミュージくんとバラードの関係と同様に編集上の使いにくさはミュージ郎にもある。
そう思っていたら案の定バラードからバラード2へのVer.UPである。
当時からほとんど欲望には限界の無い世界である。
当然のようにVer.UPの手続きを行った。
バラードの最初のバージョンはプロテクトの掛かった、HDでの使用は全く考えられて居ないものだった。
(当時はパーソナルユースではFDのみのシステムがあたりまえだったのだ)
ミュージくんと比べ機能が多くなった分だけ重たくなったバラードはどうしてもHDで使たかった。ユーザーの権利として某コピーツールを使ってプロテクトを外してHDで使用していた。
バラード2ではプロテクトはあるもののキーディスク方式でHDでの使用は可能になった。
さらに重くなったのだから当然ではある。
しかし、ユーザーの利便、HDと言う装置の機能を考えた場合、これはどういう物であろう?いい加減、正規ユーザーに「だけ」不便を強要するコピープロテクト等という悪習はおしまいにして頂けないだろうか?と、当時は本気で憤慨していた。
流石に最近はなくなったようだが、暫く前まではHDDにインストールした後でも起動するたびに正規のシステムフロッピーを挿入しないと立ち上がらないソフトがたくさんあったのだ。
まだコンピュータはスタンドアロン。GM規格さえ、世に出ていなかった古の世界であった。
…続く
この項はEPSON PCの専門誌Value UP(株マディ刊:現在休刊)に掲載した原稿に加筆したものです。