愚行連鎖 苦界の底より…

GB楽器博物館

哀しげな救いを求める声が聞こえた…


YAMAHA FG250J(Black Label)

散歩の途中、駅前でコーヒーをすすった帰り…
地元のリサイクルショップに何の気無しに入って、店の奥に無造作に転がされていた埃だらけのボロボロなギターを発見した。

YAMAHA FG250J(Black Label)
YAMAHA FG250J(黒ラベル)

どうやらYAMAHAらしい…
それにしても酷い状況。使い物になるかゴミになるかと言ったら、後者の可能性が高い。

傷だらけでボロボロのそのギターをちらっと見ると、何のことはない、全合板の安物ではないか。その上、1弦が切れっぱなしになっている。

なぁんだ…」と踵を返そうとしたら…
助け…て……お願…い」とか細い声が聞こえたような気がした。
(いや、本当に聞こえたんです、実際)

どうにも立ち去りがたくなって店の親父に
これいくらぁ?」と聞くと、
んん〜、それねぇ。ケースも何もないし、傷ダラケだし、弦も切れてるから…千円だね。税込み1,050円
(野郎!本当に申告してるのか?免税規模じゃないのか?)と思いながら、んじゃ、はい!
っとポケットから札と硬貨を取り出している自分がいた。

1,000円ねぇ。安いのか高いのか分からないな、これは…
(冷静に考えると、さっき飲んだコーヒーとミルクレープより廉いじゃないか?ごめん…甘党だ)
もし使い物にならなかったら壁掛けにでもしよう。

しかし、この年になって、ぶっ壊れかかったギターを剥き出しで持って街を歩くのは少々恥じらいを感じる。


と、まぁ、こんな具合で手に入れたのだが…
状況は角という角全てにぶつけ凹み、平らな面には全てスクラッチ。深いえぐれ傷もあちこちにある…
背面にはガリガリのバックル傷。
トップにはブリッジとピックガードを横切り円を描くような深い大きな傷。
その上トップのテールピン側にはステッカーを貼った後溶剤でも使って剥がしたのか、塗装が溶けた後を擦ったような大きな傷。
マシンヘッドはサイズの合わないドライバーで無理矢理回したのだろう。ネジ山が見事に潰れている。
ユリア樹脂製のブリッジサドルは6弦側が大きく欠けている。
ローズウッドの指板とブリッジには筆塗りの後も生々しく、ニスの様なモノが塗りたくってある。

…想像以上に酷い。

しかし、幸いなことに、奇跡的にも割れや剥がれ、トップの歪み、ネックの狂い等はないようだ…

★写真は全て入手直後、現状のまま。




YAMAHA FGシリーズは、

オリジナルFG(通称“赤ラベル”:1966.10.〜'72.5.)と呼ばれるモデルから始まり

ハンドメイドの革ラベル(1971.6.〜)
第二期の緑ラベル(1972.6.〜)
黒ラベル(1974.7.〜)
その後の

オレンジラベル(1975.11.〜)
ベージュラベル(1980.12.〜)
アイボリーラベル(1986.3.〜)

と言う歴史をもち、現在に至っている。
型番は一部例外を除いて×100で定価が分かるシステムになっている。
黒ラベルの型番分類は、末尾に“J”が付く物は“Jumbo”の略だろうか、変形ドレッドノートとも言える大型ボディ。
“F”が付く物が“フォークタイプ”と呼ばれた、Martinのoooに近い、オーディトリアム型である。
ただし、FGには年代によっては3系統のフォーク、ウエスタン、ジャンボのボディシェイプが存在し、FG250Jのシェイプは“ウエスタン”に該当するのではないかと思う。

資料:アコースティックギターブック「ヤマハFG物語」より




FG250J Head FG250J Head Back
FG250J ヘッド

ヘッドは緑ラベル以降変更になった、先細り型。
この形は現在も継承されている。
マシンヘッドはYAMAHAロゴの入った、独特な形のしっかりしたダイカスト・ロトマチックである。
ヘッドマーク、は赤ラベルでは長体の“YAMAHA”の文字、緑ラベル以降がこの“音叉マーク”、オレンジラベルからはまた文字のロゴに戻っている。

FG250J Soud Hole

FG250J サウンドホール

サウンドホールからは通称の由来となった、一見黒に見える暗い深緑色のラベルが見える。

FG250J Label

FG250J ラベル

変色したラベルは、このギターのたどってきた数奇な運命を想像させる。

YD-306 Neck Block

YD-306 ネックブロック

シリアルはかすれて判読しづらいが、60315と読める。

独特な形状のピックガードは一見黒セルに見えるが、注意深く見(ないと気づかない)ると赤黒の鼈甲柄になっている。

FG250J Bridge

FG250J ブリッジ

アコースティックギターブックの記事では、黒ラベルからブリッジデザインが両脇が斜めに切り落とされた台形に変更になっているとの記述があるが、このFG250Jでは緑ラベルのと同じ角が直角なモノである。グレードによってデザインが違うのであろうか?


当時、15,000円という普及モデルからラインナップされていたようだが、基本モデルとも言えるこのFG250Jも全て合板である。
材質はボディ/ネックがマホガニー、指板/ブリッジがインディアンローズ、トップがスプルースであろう。

ナットはどうやら交換された物らしく、詳細は不明である。
フレットは1フレット1弦辺りにかなり減りが見られるので、そこそこちゃんと弾かれていた楽器であることが想像できる。

二晩掛かってトップの傷の著しく酷いところだけはごく薄くクリアラッカーをかけて磨きだし傷消し。
作業中に気づくと、何とこのギター、ラッカー仕上げではないか!!
指板とブリッジに汚らしく塗られたニスは注意深く剥がし、レモンオイルを擦り込んで磨き出す。
本体がラッカー仕上げなので、溶剤を使ったニス剥がしにも注意が必要だ。

マシンヘッドは全て取り外し、点検後バフがけ。
2弦のトルク調整ネジの頭が潰れているのが痛いが、当面はこのまま。後日対策を考えよう。

大きめの特殊サイズなのでユリア樹脂のサドルは手に入らない。
(アコースティックギターブックの資料ではサドル:牛骨との事だが…さて?)
出来ればオリジナルと同じ仕様に戻したかったが、仕方がないので牛骨のブロックを入手。同サイズに加工する。

とりあえず、どうにか見られるようになったので弦を張って、ちょいと爪弾いてみてびっくり!!

凄い!!。

中級品の総合板のギターが、どうしてこんな声で歌えるの?
音がどどんと前に出るのに、箱も芯から鳴っている。
普通廉いギターだとプレーン弦が針金臭い音がするけれども、こいつはちゃんと板の振動を一緒に連れている…
OLD YAMAHA恐るべし!!

感動してしまった。
ボディは変形ドレッドノートで弦長が635mmというショートスケール。
(Martinのoooなどと同じ)
若干テンションは高めで軟弱者には辛いが、このスケールは手の小さい私にはぴったり。
MartinのOM等とは全く逆な発想、「大きなボディに短いスケール」という組み合わせが「日本人向け」というYAMAHAの解答なのだろう。

黒ラベルFG250J、当時25,000.。
ラインナップから言うとグレードは真ん中の下辺り。
こりゃFGマニアがいるのも頷ける。

信じられない価格(外見からいったら高いかも…)はともかく、この子を救い出せたことに幸せを感じてしまった。


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