愚行連鎖 ブックマッチ

GB楽器博物館

ブックマッチについて

ブックマッチ ギター等弦楽器の裏表板の製法を“ブックマッチ”と呼ぶことがある。
最近は家庭でもマッチを使うことがほとんど無くなり、マッチそのものがない家庭すらある。
当然、マッチを擦って火を着けることが出来ない若者は多いし、マッチなど見たことがない子供もかなりいるはずである。

弦楽器の製法に名を残す“ブックマッチ”もその姿を知らない方が多いのも仕方のないことなのだろう。
普通は、綴じ込まれた軸をむしって側薬(マッチを擦る部分のこと)に擦りつけて火を着けるのだが、むしらないで片手だけで点火するのが格好良くて練習したものである。
(失敗すると親指に火傷をする…)

いわゆるマッチには二つのタイプ
  1. 箱にバラの木製マッチが入っているもの
  2. 二つ折りの紙に紙または薄木製のマッチが綴じてあり、一本ずつむしって使うもの
があり、1.を箱マッチ、2.をブックマッチまたは紙マッチともいう。

弦楽器の製法の“ブックマッチ”の正しい由来はよく分からないが、恐らく、二つ折りにされたものを本のように開いて使う…というイメージから名付けられたのではないかと思う。
弦楽器製作の手法とは言え、後述するが、点火具としての“ブックマッチ”は出自がはっきりしており、出現年代からも俗に言う“アコースティック・ギター”のみ(少なくともMartinギター以降)の呼び名であろう。

映画の主人公が、コートの襟を立てて煙草に火を着けるのは、ライターでなければ圧倒的にブックマッチと言う印象が強い。(実はそうでもないのだが…)
そんなイメージからも、ブックマッチは何となく、ハイカラな感じがしていた。
これはブックマッチがアメリカ生れのアメリカ育ちであることも原因の一つかも知れない。
ブックマッチは、アメリカ消費文化の黄金時代に広告メディアとして出現し、普及した。
発明したのはペンシルバニア州リマの弁護士ジョシュア・ピュージ。1892年のこと。
その後1895年アメリカのダイヤモンドマッチ社がこの特許を買い取り、箱マッチより安価だったため広告宣伝用に重宝され、一般的になった。
この頃からブックマッチの形状は現在のものと同じだったらしい。

ブックマッチは、我が国では1956年八家化学工業(株)が生産を開始したが普及せず、一般に使われるようになったのは1964年(東京オリンピックの頃)からだったそうな。
しかし、1970年代中頃(昭和50年頃)出現した使い捨てライターの普及によってマッチそのものの需要が激減してしまい、現在ではマッチなど無くとも生活が出来るようになってしまった。


>参考:(社)日本燐寸工業会


教授・yoshidaさんからご指摘いただきました。

さてブックマッチですが、火をつけるブックマッチはどうも和製英語の様で英語の場合はMatchbookでBookmatchと言った場合は中身のマッチ本体のことみたいです。
木材の工法のブックマッチですが、楽器ばかりでなく家具や突板貼りの壁材もブックマッチと呼ぶみたいですね。

確かに…
英和辞典にも
matchbook
(はぎとり式の) ブックマッチ、 (二つ折りの) 小型紙マッチ。
は、あってもbookmatchは載っていない。
ググっても非英語の頁と「本にマッチした」と言う意味の単語しか見つからなかった…

Matchはどうやら、燐寸ではなく…
匹敵する (人・物) →対抗する とか
…と調和する、A (物) をB (物)に調和させる。
と言う意味の方のようである。
その形状から、ギターの製法のブックマッチはあの二つ折りの紙燐寸の事だと、完全に思いこんでいた。

yoshidaさんからご紹介いただいたΣ-Sectionと言うサイトに
例えば、「本」と "book" は必ずしもイコールではない。
 その証拠に、(今ではずいぶんと減ったと思うが) 飲み屋で用意している紙マッチ。あれを "match book" というが *1、日本語で言うところの「本」でない。
 つまり、 "book" が意味するところは「なんか大事なものを挟んである物体」であって *2、書物を想像する我々の語感とはちょっと違う。

注1:
 日本では「ブックマッチ」というようだ。"book match" は、"match book" の中の1本を指すのだが。
注2:
 語源は「書物」である。ぶなの木 (boc) の樹皮に書き物をしたためだそうだ (WEBSTER'S NEW WORLD DICTIONARY SECOND COLLEGE EDITION)。

…という記述も見つけた。

ブックマッチ・チェア これはオークヴィレッジで見つけた“ブックマッチチェア”
ブックマッチ(本を開いたような左右対称杢)の背板にゆるやかな曲げ木加工を施し、もたれたとき、背中に心地よくあたるようにしました。また、曲げ木にすることで、平面では見られなかったブックマッチの木目の変化を楽しむこともできます。
…と説明がある。


ツキ板の総合メーカー北三株式会社には“マッチ製法”の詳しい説明もあった。

ブックマッチ ブックマッチについて

ブックマッチは、同じフリッチ原木から採れた「ツキ板」を奇数番は木表に貼り偶数番は木裏に貼る手法です。
丁度本を見開いた様な木目柄に見えるので Book Match と呼ばれます。

←つまり、こういう事である。


スリップマッチ 逆に、木目をつなぎ目から対照に合わせない
スリップマッチについて

スリップマッチは、同じフリッチ原木から採れた「ツキ板」を採れた順番に並べて貼り付ける手法です。この図はツキ板の間に隙間がありますが実際には隙間なく貼られます。
この方法では同じ模様の木目が並ぶので端正な感覚に仕上ります。木目の柄によっては、多少シツコク感じる場合もあるでしょう。この方法は最も基本的な貼付け手法です。

と言う合わせ方もあり、
←こんな風になる。


その他…

ミスマッチについて

ミスマッチは、同一フリッチに拘らずに柄や色の似たツキ板を違和感の無い様に工夫しては似合わせる手法です。時には柄を合わせるために上下を反転させたりしています。この方法によればかなり大量の壁面を同じような模様で張り上げることが可能です。また、全体に木目に変化もでたりして面白い趣向に仕上る場合があります。ブックマッチは、同じフリッチ原木から採れた「ツキ板」を奇数番は木表に貼り偶数番は木裏に貼る手法です。

と言う合わせ方もあるそうで、これは木目がランダムに並んだような印象になる。


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