GBのアームチェアCinema見ist:柘榴坂の仇討

柘榴坂の仇討

柘榴坂の仇討

監 督 若松節朗
出 演 中井貴一/阿部寛/広末涼子/高嶋政宏/真飛聖/藤竜也/中村吉右衛門
脚 本 高松宏伸/飯田健三郎/長谷川康夫
音 楽 久石譲
原 作 浅田次郎(短編集『五郎治殿御始末』より)
製 作 年 2014


浅田次郎による原作『柘榴坂の仇討』は、『中央公論』(中央公論新社)2002年2月号に掲載され、短編集『五郎治殿御始末』に収録された。

武士道は死ぬことと見つけたり。
これは決して、死を目指すことを美化すると言うことではない。

武士はいかに生きるかと同時に、いかに死すべきかを考える。
武士には正しい生き方があるのと同じく、正しい死に方がある。
生きる道として常に「死ねる勇気」つまり、己に恥じない生き方をしているかと問い続けることではないかと思う。

この物語を言葉で表すと静謐・矜持・覚悟・忠義・情誼と言った形容が出来る。

最新流行の、ひたすら激しいアクション、アクロバチックな殺陣に頼る時代劇とはひと味違う。
静かに穏やかにゆっくり淡々と流れる展開。
これが、伝統的日本映画の本流なのではないだろうか。

形容に使った「矜持」という言葉、まさにこれが本作。
単なるプライド等と言う薄い物ではなく、誇りと覚悟と…そして信念。

本作にはそこに「情」が加わる。

激動の時代。

雪の中にひっそりと、しかししっかりと咲く椿。
多くの人に愛でられるでもなく、それでもきちんと花を咲かせる。

時代考証から言えば有り得ない台詞・シークエンスがいくつかある。しかしそれは「敢えて作られた」物だという。
それがまた効果的なのである。
本来ならば有り得ないあのエンディング。
実は私は涙してしまった。

台詞回しなどもかなり間を取ったゆったりとした物、現代劇になれきった観客にはまだるっこしく感じるかも知れないが、俳優の美しい所作と共に本作の格調を高めている。

静かに、沁み渡ってくる感動であった。

今日はカミさんと別行動。一人での鑑賞だったが、これから観る方は是非ご夫婦でご覧になって頂きたい。

そして、久石譲の音楽。
映像を邪魔すること無く、控えめに控えめに本当に要所のみに美しい旋律が織り込まれている。
エンドクレジットも訳の分からない余韻をぶち壊すタイアップ歌手の今風な主題歌等を用いず、ラストシーンから流れるように引き続き久石の音楽で締めたのは見事であった。

全てにおいて正統派で直球ど真ん中の時代劇。
中井貴一、上手いなぁ!

ただ、落ち着いた作品故、細かいところが気になって仕方がなかった。
肩に降り積もった雪がいつまでも融けないとか、かなり降雪しているのに人物に雪が積もらないとか…。
雪が一つのキーワードでもあるので一寸残念。


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