GBのアームチェアCinema見ist:旅猫リポート

旅猫リポート

旅猫リポート

監督 三木康一郎
脚本 有川浩/平松恵美子
出演 福士蒼汰/トム/高畑充希(声の出演)/広瀬アリス/大野拓朗/山本涼介/前野朋哉/田口翔大/二宮慶多/中村靖日/戸田菜穂/沢城みゆき(声の出演)/前野智昭(声の出演)/橋本じゅん/木村多江/田中壮太郎/笛木優子/竹内結
音楽 コトリンゴ
原作 有川浩「旅猫リポート」
制作 2018


お休みだった。

前日、良い天気だったし、隠居すると小遣い少なくなるから下道優先ドライブルートを探すツーリングをするつもりだった。

朝起きたら、もう今にも泣きそうな空。

何だよこの天気!
こりゃあかんわ…
もう完全に戦意喪失。

予定変更。
気になっていた映画を観に行く。

平日と言う事もあって、客は数人。
私以外が全部オバサンとオバーさん…

古今猫が主役を張る物語は数多星の数程有り、猫視点で猫一人称の物語も多い。
そもそもがSFファンやネットワーカーに猫好きが多いのはインドア系であることもさることながら、かの名作「夏への扉」がその元のような気がする。

さて、本作、原作が“あの”アリカワ渾身のロードノベル。
主役は猫。
この映像化困難と思われる作品を、制作者がどう料理したか…

結論から言ってしまう。

主演のナナことトムか福地君かに興味がない方にはどうなんだろう。
昔から何度も述べているが、そもそも映像は文章を凌駕できない。
左様に人間の想像力というのは無限に広がっているのだ。
気に入った文章は、その読者が脳内で限りなくその世界を増殖させて行く。
構成された世界は、他人の目とレンズを通した物で補完できるような矮小な物ではない。

原作で3人?目の相棒となるワゴン車(多分、ワンボックスだ)は絵作りの観点からFIAT PANDA(初期型)に置き換えられている。
映像中の存在感から言えば、これは功を奏していると思う。
ワンボックスでは絵の中に占める割合と、車中の青年と猫の距離感が大きすぎるのだ。

原作とは異なる情景だが、ロードムービーとしての背景映像はそこそこ美しい。
そして主演の猫と青年は悪くない。決して悪くはないのだが…

これは、猫かイケメン青年のどちらかに興味がある人へ向けた作品なのだろう。

映画を見た後、やはり原作に戻ろう、と思ってしまった。
舞台化もされているらしいが、どうだったのだろう?

出版直後に読んだ原作の感想を掲げておく。

いや、もうこの人特有のあざとさが気にならないのなら、もしあなたが猫好きなら…
これはハードカバーを購入して読んでも後悔はしないだろう。

ヲッサン、久々読書でグシャグシャになった。
分かってるんだよ、泣けって言うんだろ?
このあざとさに、乗ってやろうじゃないか!

多分、これは切なく哀しいお話なのだろう。
しかし、涙と鼻水が出まくったのは、単に哀しかったからではない。

主人公と、その周辺、そして一匹の猫との暖かいつながり、絆があまりに美しく、ヲッサンの顔面はグシャグシャになったのだ。

我慢したり、誤魔化したりせずに、思い切って泣きながら読める方、是非そうしよう。
でも、出来れば通勤の車内等ではなく自室で読んだ方が良いだろう。

哀しいからではなく、暖かい気持ちで涙を流そう。

これは決して悲劇などではなく、ハッピーエンドなのだから。

旅には必ず終わりがある。
それは決して悲しい結末などではなく、安息への出発なのだから。

史上最強の主人公猫、ハイライン『夏への扉』のピートに勝るとも劣らないナナの物語。

僕らは旅の思い出を数えながら、次の旅と向かうんだ。
先に行ったひとを思いながら、後から来るひとを思いながら。
そうして僕らはいつかまた、愛しいすべてのひとびとと地平線の向こうで出会うだろう。

映画鑑賞を終えて外に出ると、予想通り本降りになっていた。
ああ、ツーリングに出なくて良かった。



return目次へ戻る