GBのアームチェアCinema見ist:メトロポリス

メトロポリス

メトロポリス:METROPOLIS

監  督 りんたろう
音  楽 本多俊之
主  演 井元由香
助  演 小林桂
製 作 年 2001
シナリオ 大友克洋
原  作 手塚治虫


手塚治虫1949年の作品の映画化。
同名映画にSF史上傑作の誉れ高いフリッツ・ラングの作品もあるけれど、手塚の作品はフリッツ・ラングとは全く関係がない。
原作は貸本文化華やかりし頃?に書かれた物で、確かに古い。
しかし、その言わんとするところは決して色あせてはいないと思う。

映画はセル・アニメーションとCGとの合成だが、違和感がない。
一言で言って、「イメージの洪水!」ジャパニメーションここにあり!!

音楽が渋い。
「レイ・チャールズ、ここで使うか??」って…ゾクゾクするほどであった。
挿入歌に使われているブルース「St.ジェームス病院」木村充揮(優歌団のボーカル)も象徴的。
音楽はジャズの本田俊之だが、センスが光っている。
勿論映画も凄い出来である。イチオシお奨め。

ストーリーや登場人物は原作とはかなり異なる解釈がなされているが、決して、原作の持つ主張や印象をぼやけさせてはいない良質のできばえである。
原作とはかなり異なるシナリオとなってはいるが、原作の持つイメージ・メッセージはきちんと現代によみがえっている。
…というよりも、手塚治虫の直弟子とも言える、りんたろう演出で50年の時を経て手塚の遺志が蘇った、と感じたのは私だけだろうか?
舞台背景が「現代人の考える未来」ではなく「1940年代の最先端未来感」なのもいい雰囲気である。
こう言ったお話が、大体ヒエラルキー社会構造とそれを象徴する居住区の対比から描かれるって類型は仕方ないのかも知れないな。
(全ては“ブレードランナー”から始まった?)

なお、本作もエンドクレジットが終わってから短いカットが入る。
エンドロール後にカットが入る映画の殆どがそうであるように、本作も、このカットを見るか見ないかで映画の印象はかなり変ってくるのだ。

他でも幾度か書いているのだが、劇場でエンドロールが終わって幕が閉らない内に席を立つ人間が、私は大嫌いだ。
「金を払った客だから、いつ席を立とうが勝手だろう」
ま、正論である。自分だけがこの世に存在するならば…



クライマックスで、私は身震いをしてしまった。そして、泣いた…
レイ・チャールズが使われているのは予備知識で持っていたが、あの場面でこの歌が流れるとは…

I Cant Stop Loving You(愛さずにはいられない)
と言う歌詞が、SE技術を駆使した壮絶な炸裂音よりも人の心に直撃を与えるのだ。
鳥肌が立つほど凄い、そして哀しいシーンである。

クライマックス前、途中で流れるブルースのSt.ジェームス病院(唄:木村充揮)もストーリーを象徴する凄い使い方だと思う。
(今日はあの娘の亡骸に 会いに来たのさ St.ジェームス病院)
音楽はジャズミュージシャンの本多俊之で、本作のために書かれた?曲も、挿入歌として使われた上記も素晴らしい。
全編を流れるディキシーやスイングのジャズが底抜けに明るいように見えて、実はその裏に悲しみを秘めているように思えた。

St.ジェームス病院
1929の曲でWord & Music by Joe Primroseとなっている。

I went down to St.James Infirmary
I Saw my baby there
She was stretched out on a long white table
So cold, so sweet, so fair

Let her go, let her go, God bless her
Wherever she may be
She can look this wide world over
But she'll never find another sweet man like me

〜以下略

映画の中では原詞で歌われているが、私の中では「今日はあの娘の亡骸に 会いに来たのさ St.ジェームス病院」という歌詞が、強く印象にある。これは30年ほど前に浅川マキというブルースシンガーが訳して歌ったモノである。
唄は現在は活動を停止してしまっている優歌団のボーカリスト木村充揮のソロ。
あのだみ声が凄みのある雰囲気を醸し、そしてその後の展開の、見事に伏線となっているのだ。

公開当時、公式サイトのBBSで「音楽が安っぽい」という書き込みを読んだ。
書き込み主は「オーケストラバックで育ったアニメファンとしては…」みたいな事を書いていらしたが…
う〜む。
はじめた食べたフレンチのフルコースだけを唯一無二最高と思いこんでしまっているような…



原作は、ロストワールド(1948)、来るべき世界(1951)の間に描かれた、手塚初期SF三部作と言われている物。
殊にこのメトロポリスの主人公とも言えるロボットは、後の鉄腕アトムやリボンの騎士のサファイアの原形になったと思われる。
本作品では少女だが、原作では(切替え式の)両性具有として描かれている。

ちなみにどの作品も角川から復刻が出ている。
ところで幻の傑作「新宝島」は手にはいるのだろうか?


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