GBのアームチェアCinema見ist:きまじめ楽隊のぼんやり戦争
きまじめ楽隊のぼんやり戦争(英題:The Blue Danube)
監督・脚本・絵 池田暁
出演 前原滉/今野浩喜/中島広稀/清水尚弥/橋本マナミ/矢部太郎/よこえとも子/片桐はいり/嶋田久作/きたろう/竹中直人/石橋蓮司
音楽 かみむら周平
劇中曲 美しき青きドナウ
制作年 2019

予告編を観て、これは観たい、是非観たいと。
このキャスティングでつまらない物を作れるなら、それは凄い才能だ。
「長年理由もわからず川向こうの町と9時から5時まで戦争中」
上映館が少ない。都内は立川と新宿のみ。
(観りゃ分かるが、それは当然と言えば当然)
新宿、何ヶ月ぶりだろう。
何じゃこりゃぁぁぁ〜〜!
ゆるゆるのコメディかと思いきや、個性的な質感に圧倒された観客は、笑うべきなのか唸るべきなのかずっと悩む。
コミカルと言うよりシニカル。
ヘタウマ(正に監督が描いたパンフレットのイラスト)画風の寓話絵本。
シュールだけれど、少なくとも笑える映画ではなかった。
観客の神経を逆撫ですることだけを目的とした演技。平坦で感情の起伏を見せない無機質な会話。強力にデフォルメされた動き。映像、カメラワークも極めて平坦…なのだが…強調を抑えた単調な画面と抑揚のない感情を押しつぶした演技とその反復、理不尽不条理に観客は中毒を起こしだんだん世界観に飲み込まれ、沈み、違和感が快感に変わって行く。
70年代のつげ義春作品の様な佇まい…そうだね。そうかも知れないね。
一昔も二昔も前の前衛シュール舞台を彷彿とする。
この手のタイプが苦手な人にとっては苦痛でしかないかも知れない。
唯一感情がこもった戦争(就業時間)業務を終了した時間に対岸から聞こえる音楽、その“向こう岸”との「美しく青きドナウ」の演奏シーンが強烈なコントラストを持って美しい。
彼岸は美しい。
途中でオチが分かってしまったりするが、これはストーリーを観る映画ではない。
全編に溢れる切なさ、哀しみ、悔しさ。
笑えなかったが、私はこれ、好きだ。
竹中直人の出演は一瞬だけでがっかりしたが、よこえとも子、片桐はいりの演技は鬼気迫る凄まじい物であった。
どこかで見た事があると思ったら、実はお笑いの人だった矢部太郎、彼も良い味を出していたな。
今野浩喜も良かったし、嶋田久作、きたろう、石橋蓮司が悪い筈もない。
これを単なる風刺とか戦争批判と見てしまっては勿体ない。極めて勿体ない。比喩の塊と言うよりも作品が比喩そのものだが、そんな事はどうでも宜しい。
きもちわるここちよい。
戦争はなぜ行われてるか、敵が誰なのか誰も知らない。
そしてだれもいなくなった…
本作は、何も考えずにこの“きもちわるここちよい”世界に身を投じるべきなのではないかと。
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