GBのアームチェアCinema見ist:風立ちぬ

風立ちぬ

風立ちぬ

監 督 宮崎駿
出 演 庵野秀明/瀧本美織/西島秀俊/西村雅彦/スティーブン・アルパート/風間杜夫/竹下景子/志田未来/國村隼/大竹しのぶ/野村萬斎
脚 本 宮崎駿
音 楽 久石譲
主題歌 荒井由美『ひこうき雲』
原 作 宮崎駿『風立ちぬ』
製作年 2013

哀しくも美しい戦争のための道具を創った男がいた。

昔…
若くして亡くなってしまった友人のことを歌にして大空へ駆け上らせた少女がいた。

一寸昔…
動く絵に情熱を注いで多くの人の心を捉えた小父さんがいた。

観るっきゃない。

と、言う訳で、封切り二日目の日曜朝一番の回の指定席を取って行ってきた。

これは、評価が分かれのも無理はない。
と、言うよりも観る側の姿勢を問われる作品の様な気がする。

いままでこの人は「アニメーション映画は子どものためにつくるもの。大人のための映画はつくっちゃいけない」と主張しており、事実、これまでの作品は子供達が何の予備知識も無しに楽しめる作品ばかりだった。

しかし、本作には怪獣もお化けももののけも…いや、もはや誰もが期待することになった爽快な飛行浮遊間すらない。
確かに飛行機はかなり飛ぶのではあるが…

登場人物全てが地べたを歩き回り、愛し合い、苦しみ続ける。
「飛行機」という大空を駆け巡る機械を主題に据えながら。

時代は大正から昭和中盤にかけての激動の時代。
学校で教わる「日本史」ですっぽり抜け落ちている部分である。
そして、時代や主題となった飛行機に対しての詳しい説明は殆ど、ない。
その辺りも含めて、本作は観る者を選ぶのかも知れない。

多分、近代日本史に興味があり、主人公のモデルとなった堀越二郎や堀辰雄、彼らが生きた時代や航空機に対してある程度知識がある人なら物語の辻褄が合い、理解でき、高評価を与えるだろう。

今回の作品は『宮崎駿の遺言』と公称されている。

つまり、今までのジブリ・アニメーションとは自ずと違ったスタンスにある物なのだ。

トトロやポニョに会いに行くつもりで、あるいはバズーの大冒険の爽快感を求めて見に行くと…
それは落胆と時間の浪費感しか得ることが出来ないかも知れない。
少なくとも、思春期以前の少年少女にはお勧めできないような気もする。

ジブリクオリティは間違いなく健在である。それは期待通り。

今回の作品は空飛ぶジブリ映画ではなく、空飛ぶ機械と一人の女性を愛した男の、そしてどちらも失ってしまった、純粋な悲恋物語。
(実在の堀越二郎は戦後復活し、国産初の旅客機YS-11設計に携わっているが…)
「愛と夢に生きる」男の物語。

物語自体は大変なベタである。
が…、素朴で、純粋で、一生懸命で、真っ直ぐな主人公達に心打たれた。

不覚にも“漫画映画”で二回もこみ上げてしまった…

宣伝自体「泣ける話」であるような作りになっていたのは非常に気になるし、宮崎監督自身が完成試写で自ら涙を流したことを好んで宣伝に用いていることには極めて違和感を持つのだが…

巷間話題の主演の声について。

う〜ん…
やはり素人には厳しかったか、所々で気になる部分はある。
物語中盤以降に進めばジブリクオリティに助けられて気にならなくなってくるのではあるが…

で…
巨匠宮崎はナニをしたかったか。
多分主役に笠智衆を置きたかったんではなかろうか。

その他気になったのは異常に多い喫煙シーン。
まぁ、あの時代、大人の男はやたらと煙草を喫うもの、それが当たり前だったのではあるが…
良作がこんな事で、世の嫌煙家諸氏の標的にされてしまうのは勿体ない。
(嫌煙家の中には見境ない人が多いし)

それから、キスシーンが多いのも一寸ねぇ…
必要なシークエンスだと言われれば確かにそうかも知れないのだが…

細かいことは別として、本作は淡々として、しかし壮大である。異色のジブリ作品と言っても良いだろう。
私が大好きな久石譲も今回、控えめではあるが何とも情景に合致した実に良い仕事をしている。
エンディングロールに据えられた荒井(現松任谷)由実の“ひこうき雲”も終了余韻を壊さず、まさに「本作のために創られた楽曲」に聞こえた。

私にとっては“傑作”として良いと思うが…
「観る人を選ぶ」作品は娯楽映画としては難があるかも知れない。

また、人によってはそこから「未来への希望=生きねば。」を見いだすかも知れないが、ラスト、破滅的、逃避的な印象が強かったのが少々残念ではある。

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