GBのアームチェアCinema見ist:ダンケルク

ダンケルク

ダンケルク(原題:Dunkirk)

監督 クリストファー・ノーラン
脚本 クリストファー・ノーラン
出演 フィン・ホワイトヘッド/アナイリン・バーナード/ハリー・スタイルズ/バリー・コーガン/マーク・ライランス/キリアン・マーフィー/トム・ハーディ/ケネス・ブラナー
音楽 ハンス・ジマー/ローン・バルフェ/ベンジャミン・ウェルフィッチ
製作年 2017/英/米/仏/蘭


第二次世界大戦初期、イギリス、ベルギー、カナダ、フランスから成る連合軍兵はダンケルク海岸でドイツ軍に包囲され袋のネズミになっていた。
1940年5月26日から6月4日。その将兵40万人を撤退させるダイナモ作戦が実行に移された。

本作はその史実を元にして、3つの視点から語られるトリプティックとして作られている。
3つの視点、空(援護の飛行機の1時間)、海(撤退に向かう艦艇の1日)、陸(浜辺の撤退将兵の1週間)の異なる時間流速を持ち同時開始進行し、ラストで一つに融合する。

監督はCG無しに拘ってこの作品を作ったという。
(さりとて画像処理全く無しでは無理で、何カ所か明らかにCGが使われている)
そして、監督は『戦争映画というよりも「サバイバルストーリーでなによりもサスペンス映画」であり、「戦争の血まみれの面」が欠けている』と述べている。

確かに、これは不思議な「戦争映画」ではある。

まず、登場人物の名前が全然出てこないし、セリフらしいセリフ・会話も極端に少ない。更に「戦争映画」であるのに“敵”の姿が全く見えない。
(流石に空中戦では敵機が出てくるが、人物は全く描かれない)

プライベート・ライアンやハクソーリッジのように過激な戦闘描写もない。
戦闘は発生するが血は殆ど流れないのである。
それどころか、こちら側の兵士達は殆ど発砲:戦闘行為すらしないのである。
味方の発砲は私の覚えている限り、駆逐艦の対空砲を含めて3回?4回かな?(空中戦は除く)

逆に“見えない敵”にじわじわと追い詰められ、ただ逃げ回る恐怖感は…そうか、監督が言うように、これはミステリー・サスペンスなんだ。
ハンス・ジマーの音楽も決して出しゃばることなく、しかし真綿で首を絞めるが如くに登場人物と観客を締め上げる。

一つには本作、“戦う物語”ではなく、“生き残る物語”なのだ。

前述したように3つの場面登場人物が異なる時間流速を持ち同時開始進行し、ラストで一つに融合する。
3つの場面が進んで最後に交差した時は興奮を覚える。

祖国に帰還した兵士に老人が呟く「生きて帰ってくれただけでいいんだよ」という言葉が象徴的である。

We shall never surrender…チャーチルか…(出てこないけど)

彼らは“次には勝利する”為に引き戻されたのだ。

上映時間は短めだが、濃縮された作劇で充実した作品であった。
ダラダラと長時間費やすのが大作ではない。

圧倒的臨場感溢れる緊迫したシーンでふと映し出される美しい空や海がなんとも言えずに美しかった。

もっとも、本作、ヒコーキ好きにとっては、もうそれだけで「い〜から!観とけ!」なのではあるが。

あぁ、IMAXの大画面、超音響で観たかった。

ヲタは映画を楽しめない…

監督はどうやらヒコーキヲタであるという話を聞いた。
本作に出てくるヒコーキについては…

ダンケルク 2機のスーパーマリン スピットファイアMk.IAsと1機のスーパーマリン スピットファイアMk.VB, および イスパノ・ブチョン HA-1112がメッサーシュミット Bf109Eに仮装されて空中戦の場面で使われた。 これは凄かったな。
メッサーの鼻が何となくごつい気がしたが、大体遠目でアップはなかったので気にはならなかった。と言うよりも動態保存のメッサーってあるのか?と思った位。


ダンケルク イスパノ HA 1112(Hispano Aviacion HA-1109/HA-1112)は、メッサーシュミットBf109をスペインでライセンス生産した単発レシプロエンジン戦闘機である。
2枚目はHA-1112-M1LとBf 109G-2。
機体部分は殆ど同一なので、ぱっと見区別がつかない。
HA-1112の黄色いエンジンカウルはBf109の特徴的塗装で、映画の機体もこの塗り分けだったが、実際には1940年頃にはまだ黄色いカウルのメッサーは存在しなかった。
(監督も当然知っていて、見分けやすいようにこの塗色を施したそうな)

ダンケルク 撮影にはソビエトの練習機Yak52も使われたらしい。
ダンケルク 艦艇を攻撃する爆撃機は Heinkel He111。

独特な形だから、これは誤魔化しようがない。
本機体は動態保存があるらしいので、多分ホンモノを使ったのであろう。


ダンケルク Junkers Ju 87愛称の「シュトゥーカ」(Stuka)とは、急降下爆撃機を意味する「sturzkampfflugzeug」(シュトゥルツカンプフルクツォイク)の略。

恐怖のサイレンは実に臨場感に溢れていた。
Ju 87と言えば急降下時のサイレン音が有名であるが、元々はサイレンを特別に取り付けていたわけではなく、急降下時に発生した風切り音がそのように聞こえただけであった。その後、威嚇効果の高さが認められ、一部の機体の主脚根本にプロペラに風を受けて駆動させるサイレンをとりつけた機体が生まれた。

シルエット程度でしか出演していないが、もうJu 87以外の何物でもなかった。
コレリ大尉のマンドリン(2001)にもStukaは出演していた(多分ホンモノ)が、動態保存ってあるのだろうか?


ダンケルク しかしながら、結構大写しになる駆逐艦。
どう見ても1940年代初頭のデザインではない。
そもそも英国海軍はダイナモ作戦に駆逐艦を出し惜しみしたので、現場に行ったのは旧式艦と思われる。

流石のヒコーキヲタ監督もフネにまでは気が回らなかったか。

シュルクーフ級駆逐艦D627 マイレ・ブレゼ(Maille-Breze)1957年5月4日就役。
1988年4月1日退役しナントで博物館船として繋留されていた物だそうだが、既に機関を取り外されていたため、曳航して現場まで運んだという。
まぁ、博物館を改造する訳にはいかないだろうが…
フネ好きにとってはこの新しさは違和感以外の何物でもない。



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