GBのアームチェアCinema見ist:カールじいさんの空飛ぶ家

カールじいさんの空飛ぶ家

カールじいさんの空飛ぶ家:Up

監 督 ピート・ドクター/ボブ・ピーターソン
音 楽 マイケル・ジアッチーノ
出 演 エドワード・アスナー/クリストファー・プラマー/ジョン・ラッツェンバーガー/ジョーダン・ナガイ
吹 替 飯塚昭三/立川大樹/松本保典/大塚芳忠/檀臣幸/高木渉/楠見尚己/松本環季/吉永拓斗/大木民夫
製 作 年 2009 米
同時上映 短編アニメーション“晴れ ときどき くもり”(Partly Cloudy)



愛する妻が死にました― だから私は旅に出ます。

3D・日本語吹替版を見た。
(3Dでは「字幕」が視覚的に非常に邪魔になる)

第62回カンヌ国際映画祭のオープニング作品となっている(アニメ映画としては初)。

本作のストーリー等がレイ・ハリーハウゼンの“SF巨大生物の島”と酷似している(しかし「盗作ではなくオマージュである」とのこと)との指摘があるそうな。

しかし、そんな事はどうでもよろしい。

カールじいさんの空飛ぶ家 巷では評価が最高と最悪の真っ二つに割れているらしい。
本作を「最悪」と評価する人は、104分の決して長くない上映時間の間、一体何に気を取られていたのだろう?

「話が荒唐無稽」?
あなた、これは童話・お伽噺ですぜ。
「主人公が見た目、性格的に可愛くない」
当たり前です。爺ぃなんてぇのは基本的に偏屈で憎たらしいものです。

正直に白状する。
アニメーションを見て泣いたのは…多分初めてである。

冒頭に書いた日本版キャッチフレーズ「愛する妻が死にました―」
予告編やコマーシャルでも、その辺りを前面に押し出して「さぁ!感動作だ!」と…


カールじいさんの空飛ぶ家 確かに、主人公カールじいさんと、後にその妻となるエリーの幼き日を描いた冒頭の10数分のシークエンスは素晴らしい。その後の殆ど無声映画で綴られる二人のロマンスと美しく愛し合って行くストーリーも音楽の秀逸さと相まって美しくも哀しく、陳腐な言い方だが「まさに掴みはOK」

なのだが…


私が涙したのはそんな「お涙頂戴」丸出しの前半部分ではない。
確かに素敵な映像・音楽表現で美しく素晴らしいものではあったが…
それらは殆どが予告編やコマーシャルで既に露出しているし、定型的と言えばそれまでの語り口なので泣く程ではない。

この映画の価値は、「掴み」とも言えるその前半部分ではなく、ましてや、中盤からのこの作品の核ともなる「大冒険」でもない。
「家が飛ぶ」、「悪役との戦闘」などは、確かに必須となるシークエンスではあるが、そのクライマックス以降、特にエンディングに真価がある。

宮崎駿が絶賛した、と言うが、そこはそれ、ディズニーとジブリは「関連企業」だしな。
そもそも『「追憶のシーン」だけで満足してしまいました』って、巨匠宮崎も年老いてしまったのかな…一寸失望だ。

エンディングを見ずして何を評価するのか…

カールじいさんの空飛ぶ家 どこを取ってもレベルの高さが際だっている。
3D映像についても、漸く「どうだ、飛び出すだろ、凄いだろ」の技術見せびらかしの段階から一歩前へ出たのではないか、と思う。作品としての必要性を制作者が理解している。
エンドロールのセンスの良さも流石である。

が…これは見る人を選ぶ映画なのかも知れない。
子供達は、多分文句なしに楽しむだろう。
それから「老い」という言葉が現実として視野に入ってきている人々にも…

カール爺さんの年齢(78歳)まではまだ大分あるが…
「老いる」と言う事、「愛する」と言う事、「想い出」と言う事、そして…
老境に踏み込んでからも、今を、明日を生き続けるという事をもう一度考えてみようと思う。

カールじいさんの空飛ぶ家 邦題は実に直截的でこれ以上ない解り易さなのだが…
原題はただ1単語“UP”である。

“UP”と言う単語には、ごく普通の英和辞典でさえ十数の意味が載っている。
シンプルであるが非常に含みのある哲学的にさえ思えるタイトルではある。

キャッチフレーズも、CMで流れて有名になった

「愛する妻が死にました―」よりも
「いくつになっても、旅に出る理由がある。」(予告編、チケット)
「じいさんだって、飛べるんです。」(特報・パネル)
の方がずっと良いな。


カールじいさんの空飛ぶ家 そうそう、同時上映の短編アニメーション
“晴れ ときどき くもり”(原題:Partly Cloudy)も秀作である。
これだけでも充分価値がある。

それから、今日は会場貸し出しの3D眼鏡だった。
掛け具合はアバターで貰った記念品の3D眼鏡度と大して変わらないが…
テンプルに電池が入っており、ブリッジ(鼻の所)のタッチセンサーに触る(眼鏡をズリ上げる動作)とレンズが偏光から素通しに切り替わる。
これは、かなり使い勝手が良かった。



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