GBのアームチェアCinema見ist:アメリカン・スナイパー

AMERICAN SNIPER

アメリカン・スナイパー(原題:AMERICAN SNIPER)

監督 クリント・イーストウッド
出演 ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラー
脚本 ジェイソン・ホール
原作 クリス・カイル『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原書房)
製作年 2014

『アメリカン・スナイパー』(原題: American Sniper)は、アメリカ合衆国で製作され2014年に公開された伝記映画である。
原作はイラク戦争に4度従軍したクリス・カイルが著した自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』(原題: American Sniper: The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History)で、脚色はジェイソン・ホールが行った。監督はクリント・イーストウッドで、ブラッドリー・クーパーが主演を務める。

2015年1月までに北米興行成績で2億1700万ドルを記録し、『プライベート・ライアン』の2億1650万ドルを超えてアメリカで公開された戦争映画史上最高の興行収入額となり、2015年2月には3億ドルを突破した。
(Wikipediaより)

予告編は何度か観たが、それ以上の予備知識を入れないで劇場に臨む。

アメリカにはつい最近、そして今も実戦を経験した人間が数多く存在し、映画にもまた関わっている。
そうした人間達が作り出した映像は息もつかせぬ程の迫真である。

160人を射殺した凄腕の狙撃手として、味方からは「伝説」と賞賛され、敵からは「悪魔」と恐れられた男をイーストウッドは丹念に、そして淡々と描く。

実は本作、スピルバーグが監督をする事で起動したらしい。
何故それが中止になってイーストウッドの手に渡ったのかは不明だが、作品としてはスピルバーグではなく、イーストウッドによって作られたのは幸運だったのではないかと思う。

実際の戦場を見てきた男達の作った映像は、砂だらけのざらついた風、焦げつき、血生臭い空気に満ちあふれ、娯楽としてこのまま観ていて良いのかと思う程の現実感がある。
それが、主人公の優先順位「神・国・家族」では最下位の妻や子供達との穏やかな生活との対比、落差に衝撃を受ける。

戦地から戻っても心は家族の元に戻れなかった、悲しき愛国者が地獄から這い上がる課程での予想だにしなかった結末には言葉を失ってしまう。
映写装置の故障かと思う程唐突に音が消えた全くの無音で流れゆく長いエンド・クレジットは、鑑賞者に何かを求めていたのだろう。

帰宅してから近頃まれに見る情報量と質のパンフレットをもれなく読んだが、クレジットに「音楽」の項目がない。

そう言えば、耳に残っているのは自動小銃や狙撃中の発射音と人がはじけ飛ぶ音だけである。
“音楽がない”事が実は本作の質感を更に高めているのではないかという気もする。

本作は、米本国で、賛否両論が巻き起こっているらしい。
右は賞賛、左からは戦争賛美だと大批判されているとか。

主人公はヤンキー丸出しのアメリカ人で、家に帰れば良き夫で良き父親だった。
原作では名前しか出てこないという敵の狙撃手にも本作では妻や子供がいる事が提示される。

主人公は常に自分を正義に置く愛国者だが、実際にはアメリカの(彼らにとっての)正義は第二次世界大戦で終わっているのだろう。

イラク戦争に反対していたというクリント・イーストウッド監督が描く戦争には正義も悪も明確には定義されていない。
戦場という非日常に置かれた男の行動をただただ淡々と描いただけである。

丁寧に丁寧に描かれた作品は、価値が高い。


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