愚行連鎖

■怪人二十面相・伝

映画の方は、大長編総天然色冒険大活劇活動写真!
これは、文句なしに面白い!
映画として非常に良くできている。
お話しは荒唐無稽の大どんでん返しで、そのストーリーは劇場用パンフレットにすら記述がない(出来ない)程だが、速度感、爽快感満点である。

映画があまりにぶっ飛んでいたのでつい、帰りに原作を入手、一気に読んでしまった。

2008.12.24.読了

怪人二十面相・伝 怪人二十面相・伝(小学館文庫)
北村想(著)
文庫: 333 p
出版社: 小学館 ; ISBN-10: 4094083022 ISBN-13: 978-4094083026 2008/9/5

怪人二十面相・伝 怪人二十面相・伝 PART2(小学館文庫)
北村想(著)
文庫: 278 p
出版社: 小学館 ; ISBN-10: 409408309X ISBN-13: 978-4094083095 2008/10/7

>映画版はこちら


これは、北村想と言う戯曲家が1989年に発表した作品。

乱歩作品である名探偵明智小五郎側から描かれた怪人二十面相、それに対し、二十面相の側から筆を進めた作品である。

“怪人二十面相・伝”、“怪人二十面相・伝 II(青銅の魔人から改題)”の上下巻で、現在は映画“K-20”ノベライズと並べて、あるいはノベライズ版の方が派手に平積みになっている事が多いので要注意。
映画のノベライズは、映画本編を観ればいいことであって、特に購入してまで読む様なモノではない、と言うのが私の持論である。

映画“K-20 怪人二十面相・伝”は、乱歩へのオマージュ作品とも言える本作をを原作にしながら、又更にそれを大々的に再構築、全くストーリーも語り口も全く異なる。

映画版の舞台は米英との平和条約を締結し、昭和の大戦を回避し、大正を引きずって歪んだ成長を遂げた日本。パラレルワールドとも言える架空の1940年代の終わり頃。

…と言う設定であったが、こちらはもう少しリアルな、大正が終わりを告げ戦乱に明け暮れる昭和の御代、そこから混乱の戦後を舞台にしている。
乱歩が書かなかった二十面相の側からの物語なので、乱歩のストーリーを裏から追うため、それは必然とも言えるのだが。

この原作は、熱狂的乱歩ファンからはかなり評判が悪い様だが、私にはかなり面白く読めた。
結構のめりこみ、1.2巻一晩で読んでしまった。

多分、殆どの日本人がその名前だけは知っている、江戸川乱歩が作り出したキャラクター、怪人二十面相。
乱歩がタイトルにもしている、この怪盗の素性に関しては、生みの親の乱歩も殆ど記述していない。
まぁ、敵役と言えばそうなので、これは仕方がないのかも知れない。
乱歩が只一行だけ書き残した二十面相の過去…

「かつてグランド・サーカスに在籍していた遠藤平吉という男。ある団員と二代目の座長の座を争い、敗れてサーカスから去った」

たったこれだけ。

この一行を上下に分冊の文庫になる量の物語に構築したのが劇作家の北村想。

「〈彼〉は市井の下駄職人の三男坊として生まれた。大正十四年のことである。」

という冒頭から、その物語は、深く暗く沈んだ救いのない状況へと展開する。
それはまるで、舞台とする当時の世相を反映したかの様に。

その〈彼〉が怪人二十面相と出会い、そして…
いや、やめておこう。
これは是非一読してその結末を確かめて欲しい。

二十面相サイドから書かれた物語なので、当然登場する名探偵・明智小五郎と小林少年は悪役になる。
この辺りが熱烈な乱歩ファンには許せない部分なのであろう。
この二人のヒーローは何ともいけ好かない、虫酸が走る様なキャラクターとして描かれているのだから。

流行の「泣ける本」ではないのだが…
終章、涙を禁じ得なかった。

何度も書いてしまうが、「映画も傑作だったが、この原作とは全く別物」。
まだ本書をお読みでない向きは、出来れば爽快アクション巨編の映画を楽しまれてからの方が宜しいかと…



●本の巻 目次へ戻る
returnトップページへ戻る