POB-6600B 50MHz 600W / SD2932(MRF151G)X2 リニアアンプ

     ↑これから張り切る基板と出力トランスの部品                   ↑    POB6600A 基板完成写真

 POBシリーズにもうひとつラインナップを加えようと色々作ってみました。特にSD2932の製作記事が無いと言うことで300W

程度のリニアを先に作成しました。しかし、芸がないので、今回は出力側のインピーダンス安定のためストリップラインも検討し、FTDX

9000や東京ハイパワーの最新のリニアアンプに採用されている、パラレルプッシュプル回路と言うものを試したくなりました。

 誰も試したことのないものを作ると言うのはワクワクしますよね。SD2931X2の製作の時は次々と石を飛ばしてしまい素人の
嘆きを冒頭に掲示いたしました。やはり、勘と度胸では出費がかさむだけなのでしょうか?いやいやそんなことはない。
  オリンピックのフィギュアスケート・荒川静香選手をTVで見て、”イナバウア”に感激し、やれば出来るではないかと強烈な
思いを新たにしたしだいであります。また、昨年の失敗の連続を反省し測定器の重要さが身にしみてわかっていますのでオークション
にて次々と機材を購入し、気づけばスペアナ・オシロ・SG・ネットアナな どと手に入れてまいりました。

前置きはほどほどにして、製作記事を連載したいと思います。

よーーし、作るぞーーーー

  今回は、SD2932というSTマイクロの石を2本使います。SD2931は、MRF150互換のFETでしたが
 SD2932はMRF151Gと互換のFETです。つまりこのSD2932は、SD2931が2本入っているジェミニタイプ
 のFETであるということです。
  通常であれば、これを1本使って出力300W程度のアンプを作ることは現在では割と容易にです。
 しかし、これを2本並べてパラレルプッシュプルにされる方はあまりいないようです。確かにFETの入手
 が難しいこともあると思います。しかし、非常に使いやすい石であることは間違いありません。
  さて、このアンプのコンセプトは”50V系 ・超コンパクト600W・広帯域アンプンプ”という
 ものです。このコンセプトを満たすためには、どうしても場所をとらないジェミニFETが有効となります。
 左上の写真は、上からTH430・BLF147・SD2932・MRF151Gが並んでいます。ご覧のように下部の
  FETのサイズが小さいことがお分かりいただけると思います。上部のトランジスターを4本並べるとかなり
 大型のアンプになってしまいますよね。そして、オマケに下の写真ですが、SD2931とMRF154が映って
 います。MRF154は知る人ぞ知る超大型FETです。なな・・なんとMRF154・1本にMRF150が4本
 入っている勘定にります。一本のドレイン損失が1,350W。50V 80MHzで600W以上の代物です。
 2本あるという事は・・・お察しのとおり次回はMRF154X2の1.9MHz〜50Mhzの1.2KWリニアを作ろうと
 思っています。一応、第一級アマチュア無線技士としてライセンスの限界に挑戦したいのです。笑
 冗談はさておき、今回のリニアのConceptとなぜSD2932を選択したかをご説明しました。

  次に、回路の設計に入ります。左の写真は最近作成したSD2931x2のPOB6300Bタイプです。
 最初に作ったものとはプリント基板の作成もこなれてずいぶんデザインも良くなりました。
 300Wクラスのアンプとしてシンプルな基板です。それを容易にしているのが、バイアスの設計
 にあります。バイポーラのトランジスターの場合は、パワーと共にベース電流も流してやる必要
 があり、バイアスにも電流を流せる回路を設計しなければなりません。FETの場合は電圧制御
 ですから、殆ど電流が流れないためにそれほど大げさな(電流を流すもの)回路は必要なく、
  LM723CNというレギュレターIC1本で制御可能です。おまけに小型軽量熱なしになります。
  もちろん、FETにも熱暴走はあります。(昔FETは熱暴走しないとOMに教わったが)そのため、
 温度補償をする必要があります。それもLM723では10kΩのサーミスターにて管理可能です。
  さて、300Wでは大丈夫だったバイアス回路ですが、600Wアンプに耐えられるかが問題です。
 文献を調べた所、FET系4本600Wアンプにこれ一本で制御しているものがあり安堵しました。
  さらに次なる関門は入出力回路になります。SD2932自体の入力インピーダンスというと
 Zin = Rs + jXs = 2.5 -3.2j (50Mhz付近推定)となります。プッシュプルのZin = Rp X 2です。
 Rp = Rs x  [ 1 + ( Xs / Rs ) ^ 2 ] = 6.6Ω となり、通常のプッシュであれば、6.6x2=13.2
 めがねコアに2回巻けば1:4の変換比となり、Zin = (6.6Ω×2) x 4 = 52.8Ω になりますから、
 入力インピーダンスを50Ω付近に調整させることが出来ます。
  では、パラレルではどういうことになるのでしょうか?先ほどの計算式を並列にしたとき、
 3.3Ωの数値がでます。50/3.3=15.15です。つまりめがねコアに4回巻けば1:16になる為
 4回ほど巻いてあげればよいことになります。あとはカット&トライってことでしょうか。
  出力回路ですか、Rp = (0.85 X Vdd ~2) / ( 2 X Pout ))から求められます。
 電圧を50V、出力は1パラレル当り300Wですから、Rp= (0.85x2500)/600=3.5Ωです。
 そして、パラレルプッシュプルなので3.5×2 = 7Ω 50Ωにする為、50/7=7.14の比率です。
 コアの巻き数とインピーダンス比率は、1:1 1:4 1:9 1:16ですから、うまくマッチングが取れ
 ません。そこで、電圧を下げることにしました、1:9の比率にするためには、Rp = 5.55Ωです。
 片側2.78Ωにする為には、Xv~2 = 2.78x600/0.85 = 1962 求めるXv=44.3Vです。
 出力は巻きすう3回ドレイン電圧を45V位に設定すればOKのようです。
 出力コアは、300Wの時の倍のコアを使用し銅パイプでがっしり堅め、テフロン線材も2mm
  以上の太いものを巻くことにしました。
   (写真左上が300W用の左から出力と入力、その下が600W用です。右のメガネコアは同一の物)
    入出力回路が決まったところで、プリント基板の作成に入ります。
 全体の回路を最初に作成するのが普通だと思います。私も、モトローラーのさまざまなリニアアンプ
 の文献やトランジスターの規格表とのにらめっこでずいぶん時間を使いました。というのも、FETを
 簡単に飛ばすわけにもいかず、慎重をきす必要があったわけです。
  さて、バイアス回路は、先にお話しましたが、LM723CNで制御するとして、全てのゲートを分けて
 分電すべきかどうか考えましたが、ジェミニタイプのトランジスターといえ、特性にばらつきがあるのは
 事実です。そこで、当初FET1本ごとに分電していたのをゲート4つ分を分電することにしました。
  幸い300Wの回路が頭にこびりついており、特に回路を図面に作成することなく(頭に描いて)プリント
 パターンを描いてみました。
 フリーソフトで"PCBE"というソフトがありこれをいつも活用しています。慣れれば使いやすいですが
 最初はCADの使用感に慣れていたので少し戸惑いました。
  左の画像がプリントパターンです。出力側のパターンは安定化の為のストリップラインになっています。
 これは、モトローラーの使った手法で、MRF154MP・1KWアンプにも採用されています
 抵抗、ダイオード、出入力コア、FET、その他の部品のサイズを測りながら間隔を設定し、何度も
 用紙に試し印刷を施しました。プリント基板のサイズは、100mm×200mmの縦長になりました。
 多少、現実のFETの端子とのパターンのズレはありますが、これはご愛嬌でしょうか。
   続いて、エッチングの工程です。最初の頃は、手書き基板にエッチングしていたのですが、最近
 はサンハヤトのポジ感光基板を使用するようになりました。価格はやはりもう少し勉強してもらいたい
 ところですが、非常に使いやすいために使用しています。
 なにしろ、バブルジェットプリンターに専用のOHP用シートへプリントアウトして、次に蛍光灯で
 30分当てると感光完了です。私は、現像スプレーを使って現像していますが、人により色々でしょう。
 最初は失敗することもありますが、それはマジックで補正すればお手ごろな元基板を作成することが
 できます。それにしてもプロの基板はきれいですよね。

  さて、いつの間にか基板も完成し、次にプリント基板の穴あけと半田付けが始まりました。
 最初の基板には、SD2932用の穴が開いていないため、電動ドリルとヤスリを使って拡張して
 いくことにしました。この基板は片面しか使用しません。FETを収納する穴が必要なわけです。
  左の赤いところがFET本体を収納する所です。何回かに分けてドリルで穴ぼこを開けて、
 最後にどてっぱらにでっかい穴を開けていきます。
 そこから、ヤスリを使って丁寧にしかも長方形に穴をゆっくりと開けていきます。多少ストレス
 は感じますが、あせらずゆっくりと作業を進めていきます。
  私は今まで乾燥した状態でヤスリをあてていたのですが、ガラスエポキシ基板からの粉末
 が体にどのような影響があるのか見当がつかないため、念のために水をすこしたらしながら
 ヤスリをかけています。この方が、埃は飛ばないし、精神衛生上もよいと思います。
 30分もすれば、綺麗な長方形の穴ぼこが完成します。サイズをすこし測りるために、FETを
 忍ばせて形を確かめるのもひとつの方法です。但し、静電気には要注意です。
  基板が完成したら、高周波ワニスを薄く塗って銅の表面処理をします。これをすると銅箔が
 変色せずに綺麗に仕上がります。ただし、半田付けの再に少し手間がかかりますが・・
 
                  少し、寄り道・・・・・<電源は重要>

    リニアアンプ作成の際に一番頭を悩ますのは電源です。私も最初は左写真のトランス(24V・40A)を
   二つ直列にして50V・40Aの電源を作ろうとしていました。 このトランスはどうもパチンコ用のトランス
  のようです。24Vのラインは銅線というよりも銅のきし麺のように長方形の骨太線が巻かれています。
  部品も調達したわけですが、トランスの重量に驚いています。一個10KG以上はあると思います。
  それと、電源の効率も巻き線ということであまり期待できません。
   そこで現れるのが次なる候補のスイッチング電源です。
 左下にの写真は、ネミック・ラムダ製の24V・14.5A電源を直列にしたものです。電圧を少し上げて
 やれば、50V・15A程度は取れます。200W〜300Wのアンプにはお手ごろの電源といえます。
 オークションで仕入れて使っていました。さすがにプロ用とあって堅強なのですか、発熱しない代わりに
 とにかくファンの音がうるさいのです。分解していじってやろうと思ったのですが、あとで壊れたらと思い
 そのままで使っていたものです。
  今度の600Wリニアアンプでは、1200W以上の電源容量が無いと困ります。45V 25A以上ほしい
 ところですが、そのような電源はやはりトランスで作るか1500Wのスイッチング電源を購入するしか方法
 がありません。価格は跳ね上がるしオークションに安価な出物はないしと困り果てました。
 電源はリニアアンプにとって重要です。安易な電源はトランジスタや部品をいためるし、電源自体の
 寿命を縮めます。そして、考えた挙句12V系の電源を3-4台直列につないで みる事にしました。
  お手ごろな電源としては場所もとらずに高電流が流せる、アルインコのDM-330MV(13.8V 32A)
 直列に3個つないでプリセット電圧を各15Vまで持ち上げて合計45Vを得ています。
 本当はもう一台足して4台で50Vを出せば余裕で50V 32Aは可能だと思います。(予算オーバー)
 今回の設計では25Aもあれば楽々600Wアウト可能なのでこれを選択しました。アルインコの電源
 が良いか悪いかは、今後使用してみての調子の良さで判断したいと思います。
  実は、前に使っていたスイッチング電源では非常に高周波ノイズが多く困っていたのです。
 しかし、DM-330MVはアマチュア無線用とあってノイズは聞こえず快調そのものです。 という事で、
 先に作成した200WアンプのPOB6200Aの電源として静粛性・ 少熱性・ノイズレスは良い点で、
 電圧・電流のメーター表示に誤差が大きい 事は困るものの別に気にしないで使っています。
  電圧が高いとパワーが出そうですよね。確かにそのとおりなのですが、マッチングがあっていないと熱に
 転化してしまいます。一番大切なのはやはりマッチングをキッチリとって石に負担をかけないことです。
 効率の高いアンプのほうが結果的にパワーるような気がしますし安定していると思います。
  さて、基板も出来たし部品もそろったところで半田付スタートしていきます。あまり神経質になる
 必要はありませんが、冬の作業は静電気がつき物なので、何回もアースを触って体に帯電した
 静電気を逃がしながらの作業となりました。全ての加工が済んで調整段階にはいります。
 全ての加工が済んで調整段階にはいります。
  ここからが一番ポイントの調整です。調整ひとつで石は昇天するし、ショートしてリード線が電熱
 のように熱くなり皮膜のプラスチックがとけてしまうこともしばしばです。ヒューズを付けて作業するのが
 ベストだと思いますが、出来上がって有頂天の私にはそのような余裕はありません。笑
  手順1.バイアスの調整(もちろん接触不良やショートがないか事前に確認しておく)
      @ドレインに電圧をかけずにIC側の電圧調整トリマーを回し、3.5V程度まで調整します。
      A次にゲート側の電圧を測定し、4箇所ともに1.5V以下に絞ります。
      Bここでバイアス調整は一休み。
  手順2.パワーは出るのか?
             @出力側にパワー計と終端型ダミーロードを接続する。
       A入力側にトランシーバーを接続して、1W前後にパワーを絞る。
       Bドレインに45Vをかけてエンジン点火!
             Cそして、入力に1W入れてみる。出力計が50W以上出れば正常です。
       Dそのまま、入力側のトリマーを回して入力インピーダンスの調整。くるくる・・・・
       Eここで入力調整完了。
  手順3.再びバイアスへ
      @片方のドレイン・ソース間の電圧とドレイン電流を測りながら片方のトリマ回転。
       おおよそ、2.1Vを超えたあたりからかなりクリチカルに反応しますので慎重を期す。
       ドレイン電流が150mAで一時終了。次々と同じ要領で3箇所を調整。
      Aトータルのアイドル電流が600mAぐらいになったところで止める。
       この間、温度補償用のバリスターと接触して電流が熱で下がるかチェックする。
      

  手順4.パワーは出るか?
      @バイアス600mAのまま、入力側に1W入れるとさっきよりパワーが出ているはずです。
       出ていればよしよし。5-10Wくらい入れてみましょう。電流が10-20Aくらい流れ出力も
       軽く300-400W出るはずです。
      A500Wくらいのところに合わせて、出力トリマーを回していきましょう。良い点が見つかる
       はずです。但し、高調波丸出しですから、スペアナがあれば、パワー最大値から幾分
       落としたところが高調波が低くなるようです。いずれにしても調整が必要です。
            Bそうですね、あと、NFBの抵抗とアウトプットトランスのコアの熱さも触診してください。
      Cそして、送信休止中でのアイドル電流が550-700mAであるなら完成です。
            D最終的に、アイドル電流はIC側のトリマー抵抗で調整してください。
     15Wくらい入れれば、ドレイン電流20〜22A  45V×20A×66% = 約600Wが出てきます。
     ただし、全て上手くいけばの話ですので、最初は上手くいかないものです。
    ポイントは、しつこく・あきらめず・根気よくです!!!

               POB6600A + LPF + BIRD4431 (Monitor)                                                   Hand Made Filter
 写真はリニア基板の調整風景です。電源の供給にはワニ口クリップを使用しています。その昔、FETをばんばん飛ばしていた頃は、
 このワニ口クリップの被覆プラスチックが焼ける臭いを何回もかぎました。つまり、ショ−−−トしているんです。 笑

回路図をアップいたしました。

 上の写真は、最近作成した600Wリニア用のローパスフィルターです。9段のタイプで-70dbの減衰効果があります。もともとは50MHzの
 某メーカー製バンドパスフィルターだったのですが、特性を調べたら使い物にならないものでした。よくこんなものを販売していたものです。
 そこで、今回のリニア用にローパスフィルターにするため、中の部品を全て撤去し高出力でも耐えられるものに改修しました。
 このLPFをネットアナで測定すると-70db以上の減衰があるようです。実際にはリニアの出力インピーダンスが安定していませんので
 このままのスペックが現れるわけではありません。確かな測定器を使用しながら調整すれば、市販のフィルターよりも特性の良いものを
 作成できます。アンプとフィルターは切っても切れない関係ですよね。
注意 長時間パワーを出す時は、ヒートシンクの温度を手で体感したり、調整の際も
    冷却用のFANをまわしていることは鉄則です。ダミーの熱にも気配りください。
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2006.8.12 update

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