
*新日本フィルハーモニー交響楽団 第286回定期演奏会
1999年6月14日(月) 19:15〜 すみだトリフォニーホール
フランス音楽ばかりを揃えた、今回の新日本フィルの定期演奏会。 指揮は若杉弘。
サティ=ドビュッシー編曲の「2つのジムノペディ」は、ドビュッシーの管弦楽法に焦点を当てた演奏で、細部まで丁寧に処理したもの。 この日のプログラムの2曲目のために、指揮台に用意された椅子に座って指揮をした若杉は、嫌味のない控え目な指揮でこじんまりとまとめた。
その2曲目は、プーランクのモノ・オペラ「声」。 若杉自らがテクストを翻訳した日本語による上演である。 オーケストラの後方に簡単な舞台装置が用意されており、ソプラノの塩田美奈子が熱演。 しかし、言葉がいまひとつ聞き取りにくく、それが日本語であった分だけ、ややもどかしい感もあった。 オーケストラは「オペラ」であることを意識してか、やや神経質な感じで、バランスが不自然になるところもあった。 日本語の台本と併せて、プーランクの音楽の妙を楽しむところまでには至れなかったのは残念。 無論、このスタイルでの上演の意図は、別のところにあったのかもしれない、と考えた上でも。
結局、私にとってこの日の最大のききものであったのは、メインに置かれたフランクの交響曲であった。 これは若杉の美質が最大限に発揮された名演であったように思った。 若杉がいくつかのドイツ音楽を指揮したとき、リズムや拍の微妙な曖昧さが気になってしまうこともあるのだが、この日のドイツ的なフランクには、そういった不満をほとんど感じさせられることがなかった。 息の長い旋律に、幅広いダイナミクスと、絶妙な緩急をつけて、正に音楽が息づいていた。 スケールの大きな身振りで渾身の指揮をする若杉に、オーケストラは全力で応じ、前半のプログラムで押さえられていたものを一気に解放した印象。 それでも若杉の棒は、要所要所で鳴りすぎそうになるオーケストラを引き締め、即興的にきこえるテンポの伸縮にも、まったく違和感がない。 こういう時の新日本フィルは、とても好調であり、弦楽器、管楽器、打楽器とも統一された方向性の中で、それぞれの自主性を存分に発揮する。 例えば、第2楽章のコールアングレはとても素晴らしく、その後に続くサウンドに緊張感と覇気をもたらし、演奏のボルテージはフィナーレに向けてますます高まっていく。 重心の低いドイツ的な演奏は、やり方を間違えるとフランクの交響曲をダルなものにしてしまう危険性をはらんでいるが、この日は若杉の、作品を大きくつかんだ指揮と、新日本フィルの若々しいノリのよさで、ワーグナーやブルックナーとの関連性までも想起させる、目のさめるような演奏になっていた。
近年になって、ふたたび新日本フィルに客演する機会が多くなってきた若杉だが、いい演奏が多くなってきた。 このオーケストラにとって、若杉はもはや重要な指揮者のひとりであるように思えた。
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