*ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  1999年3月18日(木) 19:00〜 サントリーホール
 ウィーン・フィルの1999年の来日公演は、指揮者に、現在この楽団と深い関係を持っていると言われているリッカルド・ムーティを迎えてのもの。 この日のプログラムは、ウィーンの音楽をじっくり楽しめる構成である。
 まず、シューベルトの交響曲第3番。 かつてのウィーン・フィルの強烈な個性のようなものは、大分薄くなってきているものの、音楽が始まれば、そこにはやはりウィーン・フィル・サウンドが感じられる。 ムーティは、フィラデルフィアやミラノのオーケストラを指揮していたときよりも、かなりリラックスしているようで、肩の力を抜いてオーケストラを信頼した指揮振り。 アンサンブルを細かく揃えるようなことはあまりせず、むしろこのオーケストラの作り出す音楽を楽しんでいる風情すら感じられた。 イタリア風の明るさを携えたシューベルトで、快活ではあるが、常に余裕があり、音楽は自然に流れてゆく。 第1楽章など、弦のバランスの取り方に、ムーティらしい個性がききとれたものの、スリリングな感触はなく、安定した音楽作り。 細部のアンサンブルが少し粗かったところもあって、やや緊張感が後退していた印象も受けたけれど、大きな不満を覚えることなく、楽しく全曲をきかせてもらった。 そう、このプログラムは恐らく、他の日のものよりも、くつろいだ感じの構成なのだろう。
 何しろ、後半はJ.シュトラウス・ファミリーの作品ばかりである。 すでに何度か、ウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートに登場しているムーティが、そのレパートリーの中から選曲したものは、必ずしも有名曲ばかりではなかったけれど、どんな条件であれ、ウィーン・フィルのJ.シュトラウスは、やはり「本物」である。 ワルツ、マーチ、ギャロップ、ポルカ・・・。 次々に演奏される音楽をきいてゆくにつけ、やはり喜びを禁じ得ない。 ムーティはこれらの音楽に、これ見よがしなウィーン風の味付けを施すようなことをする指揮者ではないが、それでも指揮振りは一層くつろいだものとなり、ときには両手を完全におろし、オーケストラの音楽を楽しんでいる素振りも見られた。 こういうものをきいて、みて、私にはどうしても「手抜き」などとは感じられないのである。 これらの演奏をあれこれ言うのは野暮、とさえ思う。 そこに生まれている音楽を、楽しむことが出来れば幸せなことである。
 ムーティとウィーン・フィルの関係は良好のようだ。 ただそれは、稀代の名演を生む可能性を秘めた、緊張感に満ちたものであるのかどうかは、この演奏会をきいた限りでは分からなかった。 他の日の、シリアスなプログラムもきいておくべきだったのかも知れない。 「美しく青きドナウ」はきけなかったけれど、アンコールの最後に演奏された「ラデツキー行進曲」で、聴衆の手拍子を細かく指揮してしまうムーティを見て、そう思った。



目次へ→
エントランスへ→