
*新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会
1999年3月29日(月) 19:00〜 サントリーホール
今回の新日本フィルの特別演奏会は、ソプラノのヒルデガルト・ベーレンス、メゾ・ソプラノのジェーン・ヘンシェルを迎えて、ワーグナーの楽劇「神々のたそがれ」の抜粋演奏である。 指揮は小澤征爾。
「夜明けとジークフリートのラインへの旅」から、堂々とした構えで、落ち着いたテンポをキープした慎重な演奏。 それが時に、リズムの重さをまねく結果となったところもあり、オーケストラの響きも今一つ焦点が定まらず、やや不安な滑り出し。 悪い演奏ではないと思うが、何となく特徴がつかみづらい印象を残した。
それが、「ブリュンヒルデとヴァルトラウテの二重唱」から、様相が変わった。 何と言ってもブリュンヒルデのベーレンス。 彼女が歌い出すとホール内の空気が変わり、途端にオーケストラの演奏にも緊張感が走る。 ブリュンヒルデになり切ったベーレンスに、若々しいヴァルトラウテのヘンシェルの歌が絡み、演奏会形式とは言え、両者の表情や身のこなしを見ると、オペラの舞台を見ているかのような錯覚にさえとらわれる。 小澤の指揮にも、徐々に熱が入ってゆくのが分かり、これはとても充実した演奏になった。
更にきき応えがあったのは後半のステージで、まず「ジークフリートの死と葬送行進曲」での管弦楽の圧倒的な表情。 多少の力みが感じられたにしても、オーケストラは充分に鳴り切って、ドラマティックな演奏が繰り広げられた。 欲を言えば、最強音での響きにもう少し広がりや余裕が欲しかったものの、これは熱演であったことには違いない。
間を置かずに、いよいよ「ブリュンヒルデの死と終曲」。 やはりここでの主役もベーレンスであった。 ベーレンスは絶好調時程、声にコントロールがきいていなかったようだが、ブリュンヒルデの役所を完璧に自分のものとしており、オーケストラを乗り越えてくる声量も見事で、素晴らしいブリュンヒルデを演じた。 これはもう、彼女の豊富な経験が物を言った歌唱であり、やはりワーグナーはこういう人が歌った時が最高である。 オーケストラも敏感に反応し、唸り声をあげながら入魂の指揮をする小澤の下で、終曲のきかせどころを存分に披露した。 ワーグナーのオーケストレーションは、オーケストラ・ピットでなく、コンサート・ホールのステージ上での演奏の方が、その真価が伝わってくる。 そのことを証明するかのような、熱い演奏になっていた。
小澤はワーグナーの管弦楽曲を、かなり前からレパートリーに入れているが、この日の演奏は今まできいたものの中では、もっとも充実度の高いものであったように思う。 直感的に言えば、今の小澤には、「トリスタンとイゾルデ」あたりはまだきつそうだけれど、「ニーベルングの指環」ならば、期待できるのではないだろうか。 いつか、小澤が全曲演奏に取り組む時を、興味津々で待つことにしよう。
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