
*ナショナル交響楽団
1999年2月8日(日) 19:00〜 サントリーホール
ワシントンのナショナル交響楽団の来日公演。 今回の指揮者は音楽監督のレナード・スラットキンで、この組み合わせでは、初めての日本公演となる。
ナショナル響は、スラットキンのもとで、ロストロポーヴィチ時代にきかれたパワー溢れるサウンドを維持しつつ、より洗練されて見通しのいいアンサンブルを獲得したようだ。 リズムは引き締まっており、泥臭い粘りはあまりきかれなくなった。 そのことがまず感じられたのは、冒頭に演奏された、バーンスタインの「キャンディード」序曲。
その後に、リチャード・ストルツマンをソリストに、クラリネットとオーケストラのための現代作品をふたつ。 武満徹の「ファンタズマ/カントス」と、コープランドのクラリネット協奏曲が演奏された。 ストルツマンのステージ・マナーは、おどけたような雰囲気で気さくなものだが、音楽は極めて実直なもの。 安定したテクニックに裏づけられたその演奏は、音色にそこはかとない明るさを漂わせ、これらの作品の美しさを堪能させてくれる。 武満作品や、コープランドの第1楽章にきかれる静けさも、親密さの中の安らぎの如く表現され、きき手を自然に音楽へ引き込む。 かと思えば、カデンツァでの闊達な演奏は、目の覚めるような鮮やかさで、間然するところがない。 オーケストラもソロを包み込むような演奏でこれに応え、充実した協奏になっていた。
後半のプログラムの前に、この演奏会の前日に死去したとされるヨルダンのフセイン国王のために、急遽、バーバーの弦楽のためのアダージョが厳かに演奏された後は、エンターテイナーとしてのスラットキンの独壇場となった。 ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」のオーケストラ版は、ラヴェルの編曲が有名だが、その他にもいく人かの人がオーケストラ版を編曲している。 この日演奏されたのは、ゴルチャコフ、カイエ、アシュケナージ、ストコフスキー、ラヴェルなど、9人の編曲者の手による版を、スラットキンが組み合わせたもの。 演奏前に、スラットキン自ら解説を行い、各編曲版の特徴を実際に音で説明するという念の入れようだ。 スラットキンはこの版を作るに当たり、何らかの意義や目的を持っていたものと思われるが、そういったことに関するもっともらしい説明は一切なく、「ゲーム感覚できいて欲しい」と解説を締めくくったあたりは、あっぱれであった。 事実、面倒な理屈を考えなければ、この版は新鮮で、好奇心を刺激されて、とても楽しくきくことができた。 ナショナル響も楽しみながら弾いていたようで、このオーケストラの機能の高さを存分にアピールしていた。
ビゼーの「アルルの女」からの「ファランドール」や、アンダーソンの「シンコペイテッド・クロック」のような作品は、こういう楽しいコンサートのアンコール・ピースとして、とてもふさわしいものだったろう。
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