
*読売日本交響楽団 第368回定期演奏会
1999年1月23日(木) 19:00〜 サントリーホール
昨年、読響の常任指揮者に就任したゲルト・アルブレヒトは、今月の演奏会でベートーヴェン・ツィクルスを行っている。 常任指揮者として定期演奏会の指揮をするのは、今回が初めて。 この日もオール・ベートーヴェン・プログラムである。
昨年3月の常任指揮者就任披露の演奏会で、第5交響曲をきいたときにもうかがえたことだが、アルブレヒトはベートーヴェンの作品に対して、明確なイメージを持っている。 古典的造形を維持しつつ、ベートーヴェンの持っている、当時としては前衛的な部分に光を当て、ロマン派の萌芽が感じ取れる部分を注意深く拾い上げ、それを音にしてゆくやり方。 読響は勿論、現代オーケストラであるが、アルブレヒトのベートーヴェンは古楽器のオーケストラのサウンドを感じさせるような、くすんだ響きがきこえることがある。 奏者が古楽器奏法をしているわけではないのにもかかわらず。
演奏は速めのイン・テンポを基調とした、どちらかと言えばあっさりしたものであるが、細部へのこだわりは強く、やはり個性的なものと言える。 オーケストラからすれば弾き慣れているはずのベートーヴェンを、決してルーティンな演奏にしてしまうことはない。 バレエ「プロメテウスの創造物」序曲から、この姿勢が強く感じられたが、演奏としての方向性ははっきりと感じ取れるものの、オーケストラのまとまりが今一つで、音楽がなかなかこちらに届かない。
交響曲第2番になると、事情は多少良くなったものの、やはり響きはなかなか凝縮されず、存在感のある演奏までは、あと少しの所で到達しない。 第1楽章や第4楽章のコーダの部分の激しさや、第2楽章の優雅(優美、ではない)なうたなど、きくべきところは多く、退屈してしまうところなどまったくなかったのだが、それでも感心こそすれ、音楽的な感動を得るまでにはいたらなかった。
交響曲第3番「英雄」も、だいたい同じ感想。 時折きかせるスフォルツァンドを、はっきりと意味深いことを分からせるように指揮するアルブレヒトの棒に、オーケストラはしっかりと反応するけれど、どこかよそよそしさが感じられ、強烈なインパクトのある音にはなっていないように思えた。 全体的に見ても、主張ははっきりしているし、立派な演奏であったことに違いはないのだけれど、常任指揮者の演奏会であるなら、さらにその上を望みたくなる。 つまり、私はこの演奏会に多大な期待を持って出かけ、そこでたまたま個人的な好みと少し違う演奏をされただけのことなのかも知れない。
そのことは承知の上で敢えて考えるに、やはりこれはアルブレヒトと読響が、演奏回数を重ねてゆく上で、この方向性を維持したまま、より自然に練り上げられた、この組み合わせならではの個性的な演奏が出来るようになるのではないかと思う。 そのためには、多少の時間がかかるのも止むを得ないし、逆に言えば手軽な演奏ですましてしまうことなく、じっくりとこのコンビのスタイルを確立してゆく可能性に期待できるのである。 この日は録音用のマイクが入っていたように見えた。 アルブレヒトと読響のCDもきいてみたいけれど、レコーディングはもう少し後でもいいのではないだろうか。
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