*新国立劇場公演 「カルメン」
  1999年1月24日(日) 15:00〜 新国立劇場 オペラ劇場
 新国立劇場の今年最初のオペラの演目は、ビゼーの歌劇「カルメン」。 この日は、Aキャストによる公演である。 このような公演に、どのような感想を述べればいいのか、とても困惑しているが、思い切って卑見を率直に述べてみようと思う。
 この公演を取り仕切っていたのは、指揮をし、かつ演出も担当したグスタフ・クーンであるが、これはまったく期待外れであった。 クーンは、音楽が派手に鳴り響くところでは、非常な勢いを持ってオーケストラ(東京交響楽団)を煽り、それ自体はひとつのやり方として受け入れられなくもないが、ビゼーがこの作品のスコアの様々な箇所に込めた、細やかな情感や、ちょっとしたニュアンスを十全に表現していたとは言い切れなかった。 音楽は常に粗く、仕上げが充分でないと思われ、全曲をきき通すには少し辛い指揮振りであった。
 それ以上に困ってしまったのは、演出である。 公演プログラムに、クーンのこの作品の演出に関するコメントのようなものが載っており、その考え方はなるほど、と思わせるものもあったのだけれど、それがこの公演のどこに、成果として表れていたのかは疑問である。 その演出は恣意的であったり、思いつきみたいな意味不明の部分があったりで、音楽に集中することをことごとく妨げる。 ここぞ、という場面には必ずと言っていいくらい、ダンサーが登場して、抽象的な踊りを踊る。 こういうやり方は、何も初めて見るわけではないし、ひとつの流行なのかも知れないが、それにしても今回のものは、音楽やストーリーの流れを分断してしまうほどの「くどさ」があったように思えた。
 こうなってくると、歌手達も、誰がどのくらい不調であったのか、さっぱり分からなくなってしまったのだが、どの歌手も多かれ少なかれピッチが不安定で、きいていて落ち着かない。 カルメンを歌ったナディア・ミヒャエルは、その技巧にきくべきものがある場面もあったが、どうしてもカルメンを歌わなければいけない歌手ではないように思えた。 ドン・ホセのアントネッロ・パロンビは歌の表情が平板で存在感も希薄。 エスカミーリョのアンドレア・シルヴェストレッリは、ただ粗野な印象だけを残し、音楽的な充実度を得られるレベルからは、遥かに遠い。 ミカエラの大岩千穂は、どうにか歌っているけれど、それ以上のものはない、といった印象。
 終演後のカーテンコールで、自らに対しての場内からの盛大なブーイングに、挑発的なポーズで応じるクーン。 こういった光景を見せられても、少しもおもしろくない。 何だか、うんざりしてしまった。



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