
*ハンガリー国立歌劇場 「フィガロの結婚」
1999年1月10日(日) 14:00〜 NHKホール
ハンガリー国立歌劇場は昨秋も来日しており、この時はきき逃したが、今回の来日ではニューイヤー・オペラとしてモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」を上演している。 今回はききに行くことができた。
この快活な作品は、新春にきくにはふさわしいものと言えるが、期待していた以上に、とても楽しめた。 ハンガリーの常設の歌劇場の引越し公演であり、出演者、スタッフにいたるまで、座付きの人たちによる公演である。 歌手たちの中にスーパー・スターはいないが、役によって多少の凸凹はあったものの、総じて安定度の高い歌唱をきかせてくれて、アンサンブルも充分に満足できるものであった。
演出は、ユディット・ガルゴーツィという女性演出家が担当していた。 細部に色々と趣向がこらされており、すべてが明快、という訳にはいかなかったけれど、ベースになるコンセプトは(舞台装置も含めて)オーソドックスであったので、音楽を邪魔するようなものではなかった。 第1幕と第2幕の幕間、第3幕と第4幕の幕間には、ふたりの男にちょっとしたパントマイムをさせて、これに指揮者も加わり、舞台装置の転換の間も聴衆を退屈させることがない、などユーモアのあるアイデアも見せていた。
だが、この公演でもっとも感心したのは、ヤーノシュ・コヴァーチュの指揮と、それに敏感に反応するオーケストラであった。 コヴァーチュは日本のオーケストラにも客演したことがあるのだが、私は彼の指揮に接するのは初めて。 そして、これまできくチャンスを逸してきたことを、とても後悔した。 この人は地味ながら、優れた音楽性を備えた大変に有能な指揮者である。 序曲から幕切れまで、正確なフレージングと、適確な管弦のバランス。 各楽器の分離と融合が、絶妙のタイミングで実現され、さらにはリズム感も素晴らしく、歯切れのよい、引き締まったオーケストラ・サウンドを紡ぎ出していた。 テンポは比較的速めだが、せかせかとしていなかったのは、リズムがしっかりとしていたのと、小振りの編成のオーケストラが、広いNHKホールを驚くほどよく鳴らしていたからであろう。 オーケストラの各奏者のレベルも揃っており、特にアンサンブルに対する意識の高さは特筆に値する。 「フィガロの結婚」で、これほどのオーケストラをきけることは、滅多にないと言っても過言ではあるまい。 コヴァーチュはレシタティーヴォではチェンバロを弾きながらの指揮で、八面六臂の活躍。 それもまったく危な気がない。 モーツァルトの語法と、この作品の本質を完璧に自分のものにしていることがうかがえた。 この公演は、完全にコヴァーチュが中心となって動いており、オーケストラ、そしてプロンプター・ボックスのないステージ上の歌手たちのアンサンブルを見事に掌握していた。 近年きいた「フィガロの結婚」の中では、出色のものであったと言える。
新年の最初に、早速いい思いをさせてもらった。 2階席、3階席に空席が多かったが、それが本当にもったいなく見えた。
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