僕は、なんでも屋さん。依頼人が心の底から望んでいれば、代筆だってやっちゃうし、車の運転だってお手のもの。そして、僕が手掛けるからには依頼人がびっくりするくらいの仕事をやってのけるんだーっていうプライドがあるし、それだけの仕事をこなしてきたつもり。それもこれも、僕が持ってる七つの能力(ちから)の賜物なんだ。本当は内緒なんだけど、今日は特別に、第二の能力、獣を果物に変える力を見せてあげるね。この力、最近よく使ってるんだけど、単純なだけになかなか強力なんだ。まあ見ててよ。
…そう言うと、かりんはコーヒーロートにヤカンのお湯をゆっくりと注ぎ始めた。いつになく目が真剣である。 「ふぅ」 お湯が周辺まで行き渡ったあたりで、一旦お湯を注ぐのをやめ、一息いれる。そして、粉がふくるみきったところで、今度は螺旋を描くように優しくお湯を注いだ。 「はい、どうぞ」 お湯が落ちきった頃を見計らって、カップをそっけなく僕の前に出す。かりんのいれたコーヒーの心地いい香りが、ふわりと鼻孔をくすぐった。一口飲んで不覚にも幸せいっぱいん気分になってしまった僕の耳に、自信たっぷりの彼女の声が飛び込んでくる。 「…おいしい?」 さっきまであれほど無表情だったかりんご、にやにやと勝ち誇ったような笑みを顔じゅうに浮かべ、僕の前に佐賀みかんで見上げるように僕の顔をのぞき込んでいた。この香り、この味、そしてこの顔。さては俺に隠れて特訓してやがったな、こいつ。 「おいしい?」 素直にうまいと言ってやるのはっさくだからとしばらく黙ってしかめっ面で彼女の作品を味わっているところに、スーパーで親におねだりする近所のカキみたいにくいくいくいっと僕の服の袖をひっぱって、もう一度かりん。 「えーい、うまいよ! 負け負け! 服だって何だって買ってやるよ!」 彼女が僕のために特訓までしていれてくれたコーヒーを飲ませてもらえた上に、彼女に服をプレゼントできる口実までできたのだ。こんな言い方をしてはみたももの、嫌な気分なわけがない。そして実際、僕の頭の中ではもう、かりんの夏物ファッションショーが始まっていた。 …こんなもんかな。どう? なかなかでしょ? 君ならタダで力を貸してあげるからさ、必要な時はいつでも遠慮なく呼んでよ。 え? 僕の呼び方? 簡単だよ。目を瞑って、心の中で唱えるんだ。 「いち、にの、さん」 疲れてる時に、暖かいところでやるのがコツだよ。 それじゃ、もう時間だから行くね。また会える日を楽しみにしてる! |
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