雑誌「婦人之友」に掲載された記事(1987年11月号,p.150-153,婦人之友社)
※以下の記事は婦人之友社のご好意により転載させていただきました。

■カラー頁参照

古布で刺すラグフッキング

             山本芙美子

ラグフッキングの歴史と一点一作の魅力

 ラグフッキングは北欧にはじまり、イギリスを経て、北アメリカに伝わったと一般にいわれています。一九世紀のはじめに船乗りとその家族の間にラクフッキングが行われていたことは分っていますので、私は、それが開拓者を通して、北アメリカに急速に広がっていったのではないかと思っています。
 一八四〇年という製作年号の入ったラグが現在残っていますが、一八三〇年頃までは、ほとんどの布が家庭で織られており、廃物利用とはいえ、ラグを作るだけの量を集めるのは大変であったこと、化学染料もない時代で色も豊富ではなく、残す価値のあるラグが作られなかったのではないでしょうか。
 ラグフッキングは一九世紀後半にはアメリカ全土に広がったようですが、あまり問題にされず、手芸としてさえも認められていませんでした。それでも実用品として、買手はあったらしく、内職として行われていました。はじめの頃は、仲買人が家々をまわって、出来上がったものを買い上げていましたが、次第に作り手が仲買人の家に通ってラグを作るようになっていきました。今世紀のはじめニューハンプシャ州にヘレン・アルビーが建てた工場では、それまで廃物利用だったラグ作りに、地布、刺し布とも新しい材料が使われるようになりました。製品はアブナキーラグとして有名です。
 こうしたラグ作りの産業化は、一九二〇年代に、山間部など現金収入の少ない地方で盛んに行われましたが、安い機械織のカーぺットの進出によって成功せず、一般に忘れられてしまいました。第一次世界大戦後の不況の時に実用的な趣味として見直され、また一時盛んになってキルトパーティのようにラグ.パーティもあったようです。その後一九六〇年代にもう一度リバイバルがあり、現在に至っています。
 そのラクフッキングも、長い間カナダ西海岸ではあまり知られず、一九七八年頃になってようやくバンクーバーを中心に知られはじめ、アーリー・カナディアン・ラグフッキングと呼ばれています。
 地方や、図案の特長、刺し方の違いなどによって、ラグの種類はいくつもありますが、ラグフッキングは基本的には、一枚の地布に細長く切った刺し布をかぎ針(フック)でひっかけ、ループを作っていくという手法です。布の材質、色、刺し布の幅、ループの高さ、作者の個性によって一点一作のものになるところが、大きな魅力です。

刺し方のいろいろ
 一番簡単なのは直線刺し、カナダ ノバアスコッチァ州を中心に行われていたもので、ループをバーラップ(地布)の横目にそって作っていきます。出来上がったラグは、アウトラインを除いて、すべてのループが横に一列に並んでいます。(153頁図参照)
その他、ループの向きや高さをかえて立体的にしたり、ループの先を切り揃えて仕上げるものもあります。

地布
 ラグフッキング用としてスコティッシュ.バーラップが売られていますが、麻袋や、目のあらい手芸用の布を利用するとよいと思います。ジャバクロスやコングレスなど・・・。

刺し布
 地布の目の大きさや刺し布の厚さ、伸縮するかなどによって、幅を3@〜1Bに加減して切ります。ほつれにくい布が仕上がりもきれいです。ウール地、古セーター、木綿、また好みの色に染めて使ったりします。専用のカッターもありますが、よく切れる裁ち鋏で結構です。

図案
 一八六四年頃からは市販のパターンが手に入るようになりましたが、それまではラグの作り手が、身のまわりの出来ごとやペット、お皿などを利用して描いた幾何学模様など、自分のやりたいものを自由に描いていたため、とても個性的でした。それでも流行があり、一八一〇年以前は花模様を対照的に配置したもの、単純な幾何学模様が多く、それ以後は家と人、船、動物、複雑な幾何学模様が好んで使われました。一九世紀前半にかけては、ことわざ、詩など文字を図案にとり入れることが流行しました。


 長い足つきの枠にバーラップをとじつけ、椅子に坐って刺してゆくものや、木枠に画鋲でバーラップを張り、テーブルなどを支えにして使うものが古くからありました。一九三〇年代のラクフッキングのリバイバル時代に角度を変えられるイーゼル型式のが考案され、その後ひざの上に置いて使うラップフレーム(まわりに無数の針が出ており、簡単にハーフッブを張れる)も出来ました。今は大きめの刺繍丸枠のようなものもありますがバーラップの目が曲るという理由で嫌う人もいます。

■好きな図案を考えて作ってみましょう

用意するもの
フック(かぎ針でもよい)
枠(刺繍用のものでよい)
地布(目の荒い布)出来上がり寸法+3〜5B
刺し布(ウール端布・古セーター等太毛糸)
マーカーぺン(油性・図案の下絵をかく)
よく切れる裁ち鋏
3B幅位の木綿テープ(出来上がりの周囲の長さ+12cm)

作り方
1マーカーペンで地布に図案を描く。
2 刺し布を、地布の目に合わせるよう幅を0.3〜1cmに切り、長さ30cm位にする。
3 地布を枠でピンと張る。
4 左手で刺し布を地布の裏側に持ち、フックを表から刺して、刺し布の端を表に引き出す。(左頁図参照)
5 次の目からは3@位の高さにループをきれいに揃えて作っていく。地の目が細かいときは、適当に目をとばして刺す。
6 刺し布が終ったら端を表に出し、前の刺し布が終った目から(地布)次の刺し布でループを作っていく。
7 表に出た端はループの高さに揃えて、あとで切り揃える。
8 図案に従って色を変えて、絵をループでうめてゆく。

仕上げ
・裏からぬれタオルを当てて、高温でアイロンをかけます。そのまま平らな板などの上に置いて2〜3日充分に乾かします。
・乾いたら、余分の地布を裏に折り込み、くけます。又は折り込んで木綿のテープを周囲にとじつけます。
■壁かけを作る場合は、木綿のテープを使い、さらに裏地をつけた方がきれいに仕上がります。

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(写真と挿入図の説明)
向かって右の頁の写真は左上から時計回りに、コングレスに刺したものを表側から見た様子、裏側から見た様子、ジャバクロスに刺した様子、すべり止めネットに刺した様子、を示しています。

左の頁の挿入図の上がフックを、下がループの作り方を表しています。

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