TIME OUT! TOUR

佐野元春 With The Heartland
1990.12.13(THU)中野サンプラザホール

     【Set List】


約1年ぶりの再会。この街でまた会えるなんて夢のようだ。黒白のシンプルなステージセット
の後方には "HOME" の文字をあしらった円形のスポット。会場に流れ鼓動と溶け合うこの音
楽は、
Archie Bell & The Drells "Tighten Up" この曲を私に初めて教えてくれたのも元
春だった。ドキドキドキドキ・・・あぁそうだ。この瞬間をずっと、ずっと待っていたんだ。
大歓声の中、ハートランドが登場―――


 オープニングナンバーはニューアルバムの1曲目でもある
「ぼくは大人になった」 重みのある
サウンドが身体中に響き渡る。黒ジャケット、ジーンズ&ブーツという出で立ちの元春は、髪の毛
が少し伸びて、数年前の写真と変わらないほどに若々しくカッコいい。ハートランドのメンバーた
ちともさすがにピッタリ息が合っていて、すばらしい演奏だ。長田くんのHeavyなギター、そのプ
レイを「今夜もバッチリだ!」と言わんばかりに、一瞬元春は笑顔で見つめる。90年代の私のテ
ーマと信じ、個人的思い入れの強い曲
「新しい航海」のあとは、聴き慣れぬイントロ。ギターをか
き鳴らし、きっと昔の曲のアレンジを変えて楽しませてくれるのだと知っていても、歌い始めまで
はどの曲なのかわからない。

 
♪Dance! Dance! Dance! 素敵さ Baby♪ 前列の男の子2人組が大喜びで飛び上がる。ライブで
初めて聴く
「Sugartime」、アルバム「Someday」の中の1曲だ。続いてニューアルバムの中から
「彼女が自由に踊るとき」 CDの音だけでわからなかった心地よさが伝わってくる。そして私も
自由に踊る。
「ガンボ」の後半、コーラス部分では、観客の1人をステージに上げる。最前列で元
春を見れるばかりか、その元春に手を引かれステージ上で一緒に歌ってしまう。最後には「名前は
?」と尋ねられ、再び手を引かれて客席に戻っていくという、何という Lucky Girl!!

 オープニングからずっと歌い続けていた元春が、10曲目のイントロに乗せてやっと語ってくれ
た。

「今夜は集まってきてくれて嬉しいです。どうもありがとう。僕等ハートランドはレコーディング
・アーティストとして出発してから10年目ということで、いろいろな人達が僕の所にやって来て
『佐野くん、10年というのはどんな感じだい?』といったようなことを言ってくれます。でも僕
としてはいろいろなことをやってきたんですけれども、あっという間に過ぎていってしまったよう
な気がします。そして今日会場に集まってきてくれた人達の中で、ずっと前から僕等の音楽を応援
してきてくれた人達も沢山いると思います、この場を借りてお礼が言いたいです、どうもありがと
う。―――次の曲は大分前に作った曲ですけれども、ちょうど今の僕の気持ちに近いので、歌いま
す。聴いてください」

 ゆったりとしたテンポのその曲は「Rock & Roll
Night」かと思っていたら
「Down Town Boy」、イ
ントロと元春のいつもながらの感謝の言葉を聞きな
がら、一瞬涙が滲んできた。私は元春に出会うのは
あまりに遅すぎたけれど、現在こうしてファンでい
てライブにも行くことができて何て幸せなんだろう。
そう思うと胸がいっぱいになったのだ。左手をポケ
ットに入れ、右手で指を鳴らしてリズムをとってい
る元春。

 ギターをつま弾いて始まる
「空よりも高く」、会
場は奥深い静けさの中聴き入る。途中から加わる古
田くんのドラムスが疾走感を与え、頭に浮かぶ情景
は、前回のツアーでバックに使われたリチャード・
ミズラックの写真のイメージと重なる。

「Questions」「Individualists」 思いきり飛びはね、いつでも疑問を投げかけ、体制を打ち砕きた
い。

 新しいビートのきいた
「Someday」、うれしくて大声で一緒に歌ったら、久々に声がかれてしまっ
た。そして88年のNHKホール以来の
「So Young」に乗せてメンバー紹介。Sweet Baby あべちゃ
んからSuper Dynamite Saxphone、ダディ柴田まで、時は流れていてもハートランドは変わらない。
そのスピリットは変わらない。G.O.Wに先がけて作った曲
「Asian Flowers」そして誰もがあっと驚
いた(にちがいない)ダンスアレンジの
「愛のシステム」でステージはいったん終わった。

 響き渡る拍手、喝采。

 アンコール―――オレンジ系柄のシャツで再び元春が登場。曲はいずれもおなじみのものだ。デビ
ュー10周年、10年目のステージでもデビュー曲
「アンジェリーナ」を披露してくれる。時々ステ
ージ上の元春が少年のように見えてしまう。ギターを持って無邪気にJump、Shoutする。この曲はい
つまでも色あせない。

 そしてやはりラストは
「Christmas Time In Blue(聖なる夜に口笛吹いて)」 この街で「雪の」
メリークリスマスは望めないけれど、今夜ここで再会できて心からうれしい。日常に渦巻くつまらな
い出来事は、今、すべてこの瞬間に消えていく

 
Tonight's Gonna Be Alright! エンディングは天井の照明ボールが回転、元春を中心に会場中に星
屑が散りばめられ、あまりに美しく幻想の世界のように感じていた。一瞬時が止まった。
Santa Claus
Is Coming To This Town
―――何てステキな夜、これが私のクリスマス。

 これまでも何度も元春のライブに足を運んで、楽しいのはいつものことだったけれども、今回のツ
アーほど心地よいライブは初めてだった。なぜだろう、それはニューアルバムの持つ要素なのかもし
れない。

 ライブに行ける回数は限られている。だから思いきり楽しまなきゃ損とばかりに、せいいっぱい背
伸びして元春の自由な姿を見ていた時「一度きりの人生、どうせなら楽しく生きよう」と元春が伝え
てくれたような気がした。元春ありがとう。またいつかきっと・・・



 
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