矢野顕子 Super Folk Song

1992.6.13(SAT) Bunkamura オーチャードホール
                          (3階4列1番)


 渋谷駅から歩くこと約10分、ここは東急文化村オーチャードホール。クラシック専用ホールの
独特の厳かな雰囲気の中、集まる観客は大体私と同世代(あるいはそれ以上)。思ったより男の子
の姿が目立つ。鐘の音でオープニングが知らされると、ステージ左から真っ白なドレススーツであ
っこちゃんのお出まし。広々とした舞台にはグランドピアノが1台だけだ。子供の泣き声や咳一つ、
時計のアラーム音にさえ敏感になってしまう静けさの中、「Super Folk Song」からライブは始ま
った。

 あっこちゃんの透き通るような声と演奏が、会場全体を包み込む。弾き語りのライブを2000
人以上の大ホールで行うのは、彼女にとって初めての試みという。普通であれば何処かしら飽きさ
せてしまうに違いないこの形態でも、あっこちゃんは私たちをどんどん引き寄せる。時にはやわら
かくメロウに、時には激しく。

 5曲目が終わったところで「たのもしいギタリスト」と紹介されて大村憲司さんの登場。十数年
にわたってあっこちゃんと仕事をしてきた人だけあって、その演奏の一体感はさすがだ。ジャズの
ように流し、掛け合いのある「しんぱいなうんどうかい」、フリーでありながらどこか気が引き締
まる迫力あるプレイだ。

 さて、繰り広げられる楽曲といえば、あっこちゃんのオリジナルは勿論のこと、他のアーティス
トの曲であったり、童謡であったり、曲調も実に様々。それでもあっこちゃんはその声とピアノで、
すっかり自分のものにしてしまうのだ。

 ニューアルバムにも収められている「Someday」を歌ったあとに何とあっこちゃんが
 
「今日はこの曲の作者が、お忙しい中、来て下さいました」
と元春を紹介した時の私の驚きと喜びは、それはもう冷静にここに書き表せるものではない。(し
かしさすがに厳粛なホールで「もとはる〜」と叫ぶ人はいなかった) 2人のなれそめとなった曲
「自転車でおいで」。あっこちゃんのピアノ、ボーカル。大村さんのギター。そして元春のギター、
やわらかいボーカル、口笛・・・
 「レコーディングの際、『音がクォーター(4分の1音)下がっている』と矢野さんがなかなか
  OKをくれなかったんです」
 
とエピソードを聞かせてくれた元春。黄色いシャツが素敵だ。「また明日」では一段と素晴らし
いハーモニーを披露してくれた。今夜はなんてラッキーなんだろう!

 夢見心地のまま、後半へ───やがてステージ後方には星のイルミネ
ーションが散りばめられる。「中央線」「Love Life」そしてアンコール
の「Prayer」─── 時々消え入りそうな美しい高音ボーカルに酔う。
音楽でこれほどまでに愛そのものの存在を強く感じさせてくれる人は、
あっこちゃんだけだと思う。
 「私はホントに取るに足らない女なんですけれども、音楽を通してみ
なさんに使っていただいてうれしいです。そして暮らしているともう絶
望的な世の中ですけれども、私たち人間に音楽というプレゼントをくれ
た神にも感謝したいです」

 ここに私の「LOVE LIFE」、あっこちゃんからのあふれる愛が、今夜も私を幸せな気分にさせて
くれる。



 01 Super Folk Song

 12 Someday

 02 Tong Poo

 13 自転車でおいで

 03 おおパリ

 14 また明日

 04 ラーメン食べたい

 15 花のように

 05 星の王子様

 16 ちいさい秋みつけた    

 06 釣りに行こう

 17 在広東少年

 07 しんぱいなうんどうかい  

 18 中央線

 08 機関車

 19 Love Life

 09 それだけでうれしい

Encore

 10 小夜曲

 20 また会おね

 11 塀の上で

 21 Prayer