See Far Miles Tour PartII Special
Motoharu Sano with The Heartland

1993.1.24 (SUN) 横浜アリーナ

     
【Set List】


 吸い込まれるように足早に会場の入口へ歩いてゆく。雪こそ降ってはいないけれど、冷たい雨の中、
吐く息が白い。とうとうファイナルの日がやってきたんだなぁ という気持ちが少し。でもロビーでい
つものファン仲間と過ごす時間は感傷的なものではなく、ラストに元春がいったいどんなすばらしいス
テージを見せてくれるんだろうという期待感にあふれていた。ツアーパンフレットやオリジナルグッズ
もほぼ底をついた様子で "SOLD OUT"の文字ばかりが目につく。ミニ写真展の中央には、近鉄・野茂投
手の隣で嬉しそうな表情の元春、そんないろいろな元春を見ようと集まる人たち。プロモーションビデ
オやサウンドアリーナの映像を流すモニターの周りに集まる人たち。いつもの数倍のキャパのこの横浜
アリーナに、最後の週末のために全国各地からファンが集まってきたことを実感する。センター席28
列9番は前日(49列)よりずっといい場所で、思っていたほど右寄りでもなく、ステージ全体を見る
に十分の位置だ。おなじみとなった巨大チェリーパイと窓枠を仰ぐ。

 やがていつもの "Green Onions" が流れてハートランドによるテーマ演奏が始まる。続く
「ぼくは大
人になった」
で元春が登場、今夜は白いジャケットは着ずにブルーのシャツだ。その姿を見た瞬間、最
終日だから思いきり楽しもうと思った。前後左右の席に知り合いはいなくとも、周囲にあきれられても
思いきり踊ってJumpしようと。(左前方には萩原健太さんを発見!)  何といってもニューアレンジ
「Complication Shakedown」がカッコいい。   紫色の照明、女性コーラス (Maxayne Lewis &
Melodie Sexton) とのバランス、そして長田さんのかき鳴らすギターサウンド。今までのアレンジの中
で一番イカしている。

 曲の合間にいつもよりやや多めに言葉をはさむ元春、
「どうもありがとう!今夜は沢山集まってきて
くれて嬉しいです。どうもありがとう! 去年の1月からずっと続けてきた See Far Miles Tour もつい
に今夜で終わりを迎えることになりました。全国いろいろな街で演奏してきました。そして最終日、横
浜に戻ってこられたことを、僕等とても嬉しく思っています ――― See Far Miles Tour のファイナル
らしく、今夜はみなさんと一緒にすばらしい夜にしたいです!歌ったり踊ったり隣の人をつついたり、
自由にしてください」「僕の横浜の思い出がいっぱい詰まった曲、聴いてください」
「Heart Beat」
が始まった。考えてみれば1年に及ぶこの See Far Miles Tour の中で常に演奏された曲のうち、Part
IとPart II とでアレンジが大きく違うのは、この「Heart Beat」をはじめごくわずか。たいていニュー
アレンジの方が好きになってしまうから不思議だ。ゆるやかな「Beat」に身体を揺らす。

 ファイナルだから という感傷的な気持ちはなかったんだ。
「彼女の隣人」で元春の声がかすれてい
たり、震えていたりしたことにも直前まで気づかずにいた。元春が突然、腕を顔に当て、声を詰まらせ
て歌えなくなる瞬間―――あぁ、こんな場面はこれまでになかったなと思った。そして私の胸にも熱く
こみ上げるものがある。元春、私の方なのに。こんなにもいつのまにか支えられてきているのは私の方
なのに・・・と。この美しいバラードにいつも以上の暖かい拍手がわき上がっていた。

 ステージ全体があのチェリー
パイジャケットのバックと同じ
黄色の照明に輝く、大好きな

ボヘミアン・グレイブヤード」

See Far Milesのポーズで(?)
元春がステージ後方を仰ぐと、
やがて暗闇の中、雷鳴と共に力
強いビートが響き渡り
「ミスタ
ー・アウトサイド」
 チェリー
パイは赤と緑の縞模様に照らさ
れ、窓枠の奥にはアニメーショ
ン、イメージフィルムが次々と
流れる。そして
「Sweet 16」
一番奥に居ながらもアクション
がパワフルで太ももの目立つ
(笑)マニピュ堀川さんにも歓
声がとぶ。アルバムのオープニ
ングを飾るこの2曲は、まさに
ステージの山場、ライブでしか
味わえないだろう。

 
「Do What You Like」 に合
わせての Dance も軽快、ダディ
と明さんの掛け合いも絶妙な

Wild Hearts」 
に続いては

「Rock & Roll Night」 昨年1月の平塚公演から毎回聴いてきたこの曲に特に強い思い入れがあるわけ
ではないけれど、後半の元春の叫びからラストまで、「今夜こそたどりつきたい」という熱いメッセー
ジ、ステージ後方に映し出される揺らめく桜とピアノの音色の美しさに、何故か涙がこみあげてきた。
何故だか自分でもよくわからなかった。ただはっきり知っていたのは、その時の私の心の中は、 元春へ
の感謝の気持ちでいっぱいだった ということだ。

 
「Rainbow In My Soul」 「 ――― 僕が思い出すのは Part I のとき、そう、レコーディングがちょ
っとうまくいかなくなって Part I のツアーに出た時に、横浜でコンサートしました。 そしてその時集
まってくれた横浜のみんなが僕にとても大きなパワーをくれたんだ。それがキッカケで 『 Sweet 16 』
というアルバムが生まれたのを憶えています。だから今夜はそのことを横浜のみんなに感謝したいんだ。
どうもありがとう!―――その Part I の中から生まれた曲、Sweet16 アルバムの中に入れました。も
し歌詞を知っている人がいたら歌ってください」
 元春は3月の神奈川県民ホール公演のことを言って
くれているんだ。勿論私もあの日客席で熱くステージを見つめていたうちの1人だ。そう、1年前平塚
で、新しい曲をやりますと初めて披露してくれた時には歌えなかったこの曲を、今夜は大声で歌う。そ
して大好きな
「新しい航海」、ステージいっぱいに広がる青い海と水平線を見ながら、上に思いきり腕
を伸ばして手拍子をとるのが楽しい。私の人生のテーマソングともいうべきこの曲を、今年はニューア
レンジで心に刻みつける。聴くたびにソリッドになっていく
「Individualists」 そして 90年の Time
Out Tour 以来の
「Asian Flowers」―――

 「See Far Miles Tourの冬の11月から12月は全国クリスマスソングを歌ってまわったんだ。なか
なか好評で僕はうれしかった。そして年が明けて、もうクリスマスソングは歌えないなと思ったときに、
じゃ何を歌おうかと考えたんだ。 で、昔の曲を紐解いてみるとちょうど新年の曲があったんだ」 

「Young Bloods」から始まるアンコールナンバー、長田さんと2人きりの「また明日」は会場も波打つ
静けさで聴き入る。 元春の合図でハートランドが戻ってくると、 あとはもう Dance、Dance、Dance!
ラストは
「Someday」、一番の詞をすべて会場が一つになって歌っていた。最後には長いツアーを支え
てきたスタッフが紹介される。元春の言葉は1つ1つがシンプルで、だからこそ暖かく心に残る。ステ
ージから投げてくれたバラの花には手が届かなかったけれど、 元春 with The Heartland、 すばらしい
ライブ、感動的な一夜だった。

 93年は始まったばかりだけれども、この横浜でのライブと共に、私の人生の中のある貴重な一時期
が静かに過ぎていったのだと感じる。See Far Miles Tourは心の中にいつまでも残り、輝いていくだろ
う。最後に元春たちがステージを去る姿を見ていた時、決して悲しくはなかった。また次のツアーで必
ず会えるから。
「The Heartland と一緒に1993年、今年も僕はがんばります。みなさんもどうか身
体に気をつけてがんばってください。今年がみなさんにとってすばらしい年でありますように!」
 元
春、1年間のツアーをありがとう。そして2年間にわたるプロジェクトの成功、おめでとう。



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