International Hobo King Band
     featuring
   Motoharu Sano

 1996.12.17(TUE)日本武道館

      【Set List】


 私にとって「元春のライブに行く日」というのは、もうそれだけで特別な1日になる。その上、それがツ
アー終盤のスペシャル公演で、しかもクリスマスシーズンで、ましてや「行けない」と一度はあきらめた公
演であるならば、きっと何年に一度しか巡ってこない、思い入れたっぷりの日々だ。九段下駅から足早に六
度目の日本武道館へと向かう。
 会社帰りだから仕方のないこと、アリーナ入場口の扉を開いて一歩足を踏み入れると、そこでは
「ぼくは
大人になった」
の真っ最中だった。座席はステージ全体がよく見える、ほぼ元春に真正面の位置。前日はあ
まりに右端の席で、スカパラホーンズが全く見えなかったので、今夜はうれしい。3つのシャンデリアのよ
うなステージセットが美しい。会場全体から沸き上がる熱気は、冷たい雨に濡れながら遅れてきた私をすぐ

に包み込み、心地良いビートに体が揺れてくる。間奏で繰り
広げられる佐橋くんのギター、KYONさんのイカしたマンド
リンプレイ、そして元春のハーモニカ。
「ぼくは大人になっ
た」
―――この曲を International Hobo King Band の成熟
ぶりが最も窺い知れた曲、と言い切ってしまいたい。
「ところでみんなテレビ見た?生ダラとか」「知らない人も
いるかもしれないから少しだけストーリーを紹介したいんだ
けれども」
 元春、ここに集まるファンなら知らない人はい
ないよ(笑)と思いながら、こんなMCにすっかりなごんで
しまう。今最も新しい曲
「Freedom」、バイクチームのため
に作られたこの曲は激しくはないけれど、漂う疾走感、そし
て佐橋くんのギターがカッコいい。TV on Air 以来すぐに気
に入ってしまった曲だ。
 
「僕等はちょうど1年前に東京のあるリハーサルスタジオ
に集まって、バンドとしてスタートしました。そしてその時
には僕の過去の曲、今の曲、これからの曲、いろいろな曲を
演奏して、自分たちで気に入った演奏を今夜みなさんに聴い
てもらっています。アルバム "Someday" から1曲やりたい
んですけど、どうぞ座って聴いてください」
 井上艦氏率い
るオーケストラが入り、
「サンチャイルドは僕の友達」が始
まる。14年前のアルバムの1曲にすぎなかった、過去に埋
もれたこの曲が、新しいバンドで新しく生まれ変わり、壮大

な歌曲のように感じられる。前日の公演で元春は
「オーケストラと一緒にやってみてどんなふうになるのか、
僕自身が聴いてみたかった」
と言っていた。そう、International Hobo King Band サウンドと見事に融合し
た、新しい音楽だ。バラード3曲のあとはスカパラホーンズを加えて何かゴキゲンなリズム、思わず♪ホノ
ルル帰りの Mickey Rourke♪と歌いたくなってしまった(笑)
「99 Blues」、楽しいアレンジだ。10ヶ
月ぶりのスカパラホーンズ、彼等4人のバラバラなダンスやダイナミックなプレイを見て、やはり楽しくて
たまらない
「彼女はデリケート」、やがて「約束の橋」までの14曲で第一部が終了した。
 一般のオーディエンスに演奏曲目をあらかじめ公表するというのは初めてのことではないだろうか? 入
場の際に配布されたリーフレットを今夜もながめている。あの曲も、この曲も、まだまだこれから! さら
に期待が高まっていく。
 第二部―――「フルーツ」アルバム中心の構成。私の大好きな
「楽しい時」「僕にできることは」そして
再び座って聴く
「天国に続く芝生の丘」 結婚がテーマというワルツ調のこの曲が何故か哀しく心に響く。
やがて
「夏のピースハウスにて」へと続いていく。一番聴いてみたかったのはこの曲なのかもしれない。美
しいメロディーに、自分がこの夏から秋にかけて見てきた風景が重なり、涙がこみ上げてくる。思えばこの
場にいられることさえ幸運なことなのだ。
 オーケストラで印象的なのは、井上艦氏の派手すぎる衣装と(笑)、メンバーたちの様子だ。彼等は自分
たちの演奏のない楽曲の時には沢山のオーディエンスと同じように手拍子をして楽しんでいる。元春の人柄
がにじみ出てくるようなステージだ。
 やがてKYONさんのステキなピアノで始まる Jazz Time、ストリングスのダイナミックな重音、元春がまる
で天空のすべてを抱きとめているかのよう。そして私の大好きな
「Do What You Like」! 久しぶりのこと
だった。絶対にこの曲はスカパラホーンズにもピッタリだと思っていた。きっと人に話せば笑われてしまう
にちがいないけれども、私はいつまでもおとぎ話を信じていたい。10月11日にNHKのスタジオで元春
に手渡した手紙の中に「"Do What You Like"を演奏してください」と書いていた。元春はきっと私の願いを
かなえてくれたのだろう。クリスマスにふさわしいこんなおとぎ話、今夜くらいは信じていてもいいよね?
 
「もうすぐクリスマスだね」そう言って始まった「Christmas Time In Blue」、元春の体いっぱいを使っ
た Dance & Step に心も体も踊り出してしまう。天井で輝くミラーボール、美しい照明の数々。 Tonight's
Gonna Be Alright. もうきっとこれ以上のクリスマスプレゼントはないだろう。
 
「悲しきRadio〜デトロイトメドレー」を終えて、International Hobo King All Stars がステージに一列
に並ぶ。メンバー紹介のあともオーディエンスは離れ難く、足でドンドンと床を踏みならしながら、アンコ
ールの拍手を送り続ける。
「すごくうれしい。だけどすごく苦しいよ」と元春。
 
「ずっとみんながいる限り、ライブやります。また来てください」最後にこんなあったかい元春の言葉を
聞いて、1996年、私の上にもクリスマスがやって来た。ありがとう、元春。すばらしい夜をありがとう。



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