今夜も愛を探して
元春のデビュー以来10年間の活動の中で、DJという分野がおそらく切っても切り離せないの
と同様に、ファンにとって日常生活において「DJ佐野元春」はもはや欠かせない存在だ。私が初
めて元春の番組を聴き「歌っている時の声と随分違うなあ」と感じていたのは1983年のこと。
2年後からは毎週の放送を録音するようになり、その時々の元春のVoiceは棚の中のいくつものカセ
ットテープの中に、そして私の心の中に生き続けている。Radioを通して、時にはイキのいいロック
ンロールに勇気づけられ、時には美しいバラードに心酔い、そして時には単なる音楽の紹介者では
ない元春の思想や言葉にハッとさせられる。
「すぐれたミュージシャンが必ずしもすぐれたDJではない」という図式に納得しつつ、元春が
ミュージシャンであることを一瞬忘れてしまうことさえある。ビートジェネレーションやアルチュ
ール・ランボーについて語り、自分の世代で得た「いいこと」を常に次の世代に伝えていこうとい
う姿勢を崩さない元春、アースデイ、エコロジー・・・いつもなら何気なく通り過ぎてしまいがち
な事柄に、立ち止まらせて考えさせてくれる元春、自分がいったい何処から来て何処へ行こうとし
ているのかを知るために、時には過去を振り返ってみるのもいいと言う元春。決して遠い存在では
ない。ほら、すぐそこにいるのさ。
そんな元春の立つ舞台はいくつもある。どんな舞台の上であっても、前向きな姿勢と研ぎ澄まさ
れた感性で、私の心に訴えかけてくる。1990年、Radio
Stationで第一幕が上がり、新しい航海
は始まった。
元春がデビューする前に、仕事でロサンセルズのDJを取材した時、彼はこう語ったそうだ。
ラジオはいつもPositiveなメディアでなければならない
ラジオはいつも誰かを元気づけさせるためにある
ラジオはLoveである
23時30分、今夜も愛を探して、街のRadio
Kidsはラジオのスイッチに手をのばす。
1990年 秋
Esme
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