佐野元春 with THE HEARTLAND

   
Set List

★1994年9月15日木曜日、横浜スタジアム"LAND HO!"―――何もかもがすべて夢のように感じる瞬間が
あった。ハートランドがこれで最後だなんて、きっとウソなんだと思う一瞬があった。決して自分をセンチメン
タルな物語の中心に据えるつもりはない。けれども「Someday」が終わってメンバーが紹介され、元春からの終
わりの挨拶が届くとき、自分の表情が少しゆがんでいるのがわかった。涙がにじんできた。「あぁ、これが本当
に最後なんだ」 でも元春が言っていたように今日のライブは"祝祭・フェスタ"、この新しいみんなの門出に涙
は似合わないと思った。涙を流すなんてまちがっているんだと。拍手は長く長く続いていた。ここに集まった大
勢のファンは「Someday」がラストナンバーだということを知っているようだった。「ラスト・ワルツ」のテー
マが心にしみてゆく。ゆっくりと心の奥底に。そしてしばらく
"THANK YOU FAREWELL THE HEARTLAND"
スクリーンに写る文字を見つめながら茫然と立ちつくしていた。「A Dream Goes On Forever」そして「ラスト
・ワルツ」、何て今夜にふさわしい曲なのだろう。


★The Heartland と駆け抜けた8年間―――1988年、元春はライブアルバム「HEARTLAND」を発表するに
あたって、ザ・バンドのギタリスト、ロビー・ロバートソンのこの言葉を紹介してくれた。
「ライヴ・ツアーは、
自分たちの教室だった」
 私はこれまで8年に渡って53公演、ハートランドのステージを見てきたことになる。
まさにハートランドのライブこそ私の教室だった。幾度となく足を運ばずにはいられない空間、そこに集う多く
の仲間たちと互いの成長を認識し合いながら、共に喜び、驚き、発見をし、約束をして、9月15日、この記念
すべき日を迎えたのだ。


★Rain,Wave,Moon―――5年ぶりの横浜スタジアム、野外ステージには「自然」という偉大な演出家が存在し、
オーディエンスやスタッフを時にはやきもきさせ、また思いもかけない演出を仕掛けてくれたりする。今年の夏
の、決して忘れられないあの暑さと水不足、でもよりによって何故今日が雨なんだろう。けれどいつしかこれも
「伝説」などと言われる所以だろうか、開演前には止んでくれた。やがて3万人のオーディエンスが作り出す
BIG WAVE、それはもう武道館や大阪城ホールの比ではない。何度も何度も繰り返され、私たちのボルテージも
高まっていく。そして今夜最大の演出家は「月」、「悲しきRadio」の途中 ――
「Down Town 月に照らされて 
今夜のこのステキな横浜の夜!」
と元春が指さす方向に本当に月が顔を出していた。不思議だった。


★友人との再会、続いてゆく友情―――「See Far Miles のテーマ」からスタートして初期のロックンロールナ
ンバーオンパレードのあと、紹介されて登場したのは、かつてハートランドに在籍していた2人、少し太ったタ
ケさん(ギター)に、髪が短く相変わらず細い里村さん(パーカッション)。この2人を加えての 「Wild On
The Street」「Come Shinig」今までで最高の構成、演奏にしびれてしまう。アンコールでは真っ赤なスーツで
銀次さんの登場、離れていた長い時間も一瞬にして飛び越え、息もぴったりのセッションだ。「彼女はデリケー
ト」「悲しきRadio」そして「Someday」、銀次さん、タケさん、長田さん――このハートランドの歴代のギタ
リスト3人を同時に見て改めて、ハートランドの偉大さと彼等の友情の深さを感じ取ることができた。7年前の
同じ日、この同じスタジアムで1人で楽しんでいた私も、やがて沢山の友人と出会うことになった。まさにハー
トランドは私の教室だった。卒業しても友情は続いてゆく。


★Re-members、1枚の写真―――12月、TOKYO-FM出版から1冊の写真集が発売された。
"RE-MEMBERS"、写真家岩岡吾郎氏による、デビュー当時からの元春with The Heartlandの軌跡である。その
中に印象的な1枚の写真がある。この"LAND HO!"のラストで挨拶も終わり、それぞれがバラバラになった直後
をステージ後方から撮ったものだ。メンバーの笑顔や背中にさえも充実感があふれている。当日の私の席からは
決して見ることのできなかった光景だ。
The Heartland、何てステキな集団だったことだろう。いつまでも心に
刻みつけておこう。心からありがとう。


(Napoleon Fish Times Vol.15)

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