青春の門


 佐藤浩市。
 好きな俳優の一人である。
 三国連太郎の息子という肩書きは、今となっては全くもって無用といったところか。

 1981年、彼は突如ブラウン管やスクリーンに登場してきた。何処か哀しみを湛えた
ような瞳、影のある横顔、引き締まった身体、そんな彼の姿が当時まだ中学生だった私の
心を捕らえたのだ。演技力も確かだった。

 五木寛之原作「青春の門」。当時一番好きだった女優桃井かおりとの共演作であるこの
映画は、私にとっては願ってもない作品であった。故郷筑豊から単身上京、早稲田大学に
入学し様々な人々との関わり合いの中で、自分を見つけようとする若者の姿、それこそは
まさに若手俳優・佐藤浩市のためにあるような役であった。

 あれからもう何年もが過ぎた。
 一度は消えてしまったように思えた彼の姿は、やがて少しずつテレビドラマで見かける
ようになり、今やCMでも見ない日はなくなった。
 彼を追うことはとうに止めてしまった私だったが、彼の出演作品を久しぶりに見たいと、
ふと思った。なぜだかはわからない。すっかり円熟の域に達している彼の俳優人生を覗い
てみたくなったのだ。
 そこにはきっと、私の期待を裏切らない生き様があることだろう。


                                1999/7/13
                                  Esme



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