ジャンジャン


 舞台の上には一台のグランドピアノとあっこちゃんがいる。客席右後方に立って
いても、彼女の表情のひとつひとつがはっきりとわかる距離。ふっとおとぎ話の世
界にでも引き込まれそうな、不思議な気分になる。無垢な歌声は、一瞬のうちに心
の琴線に触れ、涙が滲み出る。

 先日、はじめて渋谷ジャンジャンに足を踏み入れた。若者の街にあって30年、
この間どれだけの、その日その時代の風を眺めてきたことだろう。学生運動、フォ
ークソング、若者達の生きざま・・・とても一言では語り尽くせないほどの趣を湛
えつつ、やがてその姿を消してしまうという。

 あの夜のことは、ずっと心の中に留めていよう。
 ある歴史の小さな幕が静かに下りる、そんな時代の記憶としていつまでも・・・


                            1999年 初夏
                               Esme



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