International Hobo King Tour
       featuring
 The International Hobo King Band

  1996.1.18(THU)宮城県民会館

       【Set List】


      
新しい1年の幕開けに
      早朝 南西の空に残る三日月に
          杜の都に
      いつしか元春の音楽に魅かれ
       集うすべての仲間たちに
     冷たい空気を思いっきり吸い込み
        約束の挨拶をかわそう
           そして
         ともに過ごそう
         この楽しい時を!


プロローグ【君が癒してくれるだろう】

 前々日に会社から突き付けられた現実(あるいは未来)にひとかたならぬショックを受けた私は、
まだ立ち直れずにいた。仕事が恋人だなんていう陳腐な言い訳が通用するとするなら、いわば長年思
いを寄せていた人とようやく一緒になれた途端、冷たく突き放されたといった気分。気持ちの整理を
つけるには、時間が必要だ。折しも季節は冷気が肌を刺す真冬。でも旅に出るにはうってつけだ。

 正午過ぎ。やまびこ123号で仙台入りを果たす。初めて訪れる街。あまり実感のないままに、宮
城県民会館の小さな楽屋出入口前で元春を待つ。寒い。午後2時、派手な柄のワゴン車が2台到着し、
2台目の後方から元春が降り立つ。ふわっと伸びたライオンヘアーが白髪混じりでビックリ。3人の
ファンとの会話のあと、私の番がまわってきた。ドキドキ・・・エルビスのポストカードと前日の夜
に書いた手紙を手渡し「楽しみにしています」と言葉にするのがせいいっぱい。それでも元春はじっ
と私の顔を見てくれて、手を差しのべてくれた。4年前の大阪空港を思い出した。あの時もそうだっ
た。じっと見てくれるんだ。元春の顔はクッと引き締まって小さく、瞳は澄んでいる。そして暖かい
手。ありがとう、元春。さあ、開演まであと4時間だ。


ゆっくりと会場に足を踏み入れる。久しぶりに心が躍る。とうとう今日という日がやってきたん
だと実感する。ステージには"INTERNATIONAL HOBO KING BAND"のクラシックなモノクロのロゴマ
ークが掲げられている。スカパラホーンズ用の台が5つ、ダイナミックに並び、ステージ両脇にはス
ロープがある。午後6時40分、開演。会場には Archie Bell & The Drells の "Tighten Up"が流れ
始め、やがてInternational Hobo King Bandのメンバー、そして元春が登場するともう嬉しくて、た
だ飛び上がり叫ぶ。真っ赤な新しい?シャツに白いジャケット、おしゃれに決めている。オープニン
グは? なんだろう? ドキドキ!

 
「約束の橋」で始まった。そうか、「約束の橋」だったんだ! 約束どおり、元春は私たちの前に
再び姿を現してくれた。前へ前へと進んでいく疾走感が新鮮だ。
「今夜は新しい仲間たちと共にたく
さん演奏するので、みんな最後までリラックスして歌ったり踊ったり楽しんでってください」
と元春。
そしてあたかも"SGT.PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND"であるかのような
"INTERNATIONAL

HOBO KING BANDのテーマ"(?)がカッコいい。一発で
気に入った。新曲はうれしい。続いて初めて生で聴く
「十
代の潜水生活」
、やっぱりホーンセクションがいかしてる!
どの曲も全体的にアレンジをスカパラホーンズ用に変えて、
音に厚みがあるのが印象的だ。

「今日はツアーの初日ということで、少しいい格好をして
きたんだ。でもあんまり着慣れてないから何だか変な感じ
なんだ」
そう、元春って初日のステージ上では妙に冗舌な
んだ(笑)
「新しいシャツ」、またあの逸話が聞けるなん
て思ってもみなかった(笑)

 ステージも中半にさしかかった頃、美しいバラードの旋
律にのって元春が語り始める。
「―――ショーが始まる前
にも少しだけみんなに伝えたんですけれども、新しいツア
ー、この街で僕等始められるのをとてもうれしく思ってま
す。そしてみんなのバックアップで、またこうしてステー
ジ上で演奏できるのをすごく感謝しています。どうもあり
がとう!」
やがてコーラスのMelodie & Sandi Sexton姉妹
が紹介される。
「彼女たちとずっと一緒にレコーディング
したり、ツアーでロードに出たりしてるうちに、僕ばかり
歌うのではなくて彼女自身の歌を聴きたいと僕は思うよう

になったんだ。新しいツアーが始まる前に Melodieに電話をして、こんな頼みごとをしました。『次の
新しいツアーで何か1曲歌ってくれないかい?』
って。彼女は快く引き受けてくれて、しかもその曲は
僕のホントにホントに大好きな、ホントにホントに大好きな曲なんだ。この曲が作られたのは60年代
の前半ですけれども、Goffin=Kingの名曲なんだ。曲の内容を簡単に説明すると、女の子が男の子に向
かってある日告白するんだ。
『あなたと一緒にいると、私は何だかとても自然な女性になれるの』そん
な曲なんだ。そしてこれから彼女が歌ってくれるけれども、今日集まってきてくれているみんなの中で、
しかも女の子の中で、もしサビのところ、コーラスのところ、何かキャッチしたら心の中で一緒に歌っ
てもらいたいんだ。  Goffin=King、その曲のタイトルは―――
"You Make Me Feel Like A Natural
Woman"
あぁまるで昔のMotoharu Radio Showみたいだ、と思った。月曜の夜、よく元春はこうして
曲の一節の内容を紹介しながら、胸がときめくようなステキなオールディーズを私に教えてくれた。私
の大好きなキャロル・キングのこの曲をメロディさんのボーカルで聴けるなんて・・・本当にうれしい。
元春の低音のコーラスもじんと心にしみてくる。続いてニューバージョンの
「君を連れてゆく」 KYON
さんのアコーディオンと佐橋くんのスチールギターがまさに職人芸で感動的だ。

 スカパラホーンズでこうなることは予想されていたけれど、やっぱり楽しくてたまらないのは
「Indi
vidualists」と「So Young」
そしてまさかダディが出てきて、一緒に「Someday」を演ってくれるなん
て。以前なら古田さんのドラムで始まるイントロの最初のパーツがなかったことや、こうしてただ1曲
のためだけにダディを呼んでしまうところに、この曲に対する元春のとても強い思い入れを感じてしま
ったのは、きっと私だけではないだろう。

 再び、新曲はうれしい。
「楽しい時 Fun Time」、そうこの日楽屋入りする元春に「Fun Time聴き
ました!」と言った男の子に、
「今日やるからね」と答えていた元春。本当にこの曲は楽しくてしかた
ない。変速手拍子?は少し難しいけれど、この次までには練習を重ねて、メロディさんに合わせられる
よう、完璧にしていこうと思う(笑)

「新幹線で仙台の街に着いた時は、東京よりずっと寒くてどうしようかと思ったけれども、でも今は世
界中でここが一番熱いところです!」

 ♪楽しいときはあまりにも早く過ぎてしまう♪ 本当に元春の歌うとおりだ。やがてアンコールへ。
スカパラホーンズが所狭しと動き回る。スロープをぐるぐる駆け回る。モスグリーンハットの元春も何
だか今まで以上に若々しく見える。仙台のオーディエンスはとてもホットで、初めて訪れた街で一緒に
声援を送るのはとても楽しかった。選曲やアレンジにもっとひねりが欲しいだとか、
「悲しきRadio」
イントロはやっぱり阿部ちゃんでなきゃとか、そんな思いがなかったと言えば嘘になる。それでも私は
とてもうれしかったんだ。そして、とても楽しそうな元春や佐橋くんの笑顔や、ステージを駆け回るス
カパラホーンズの様子を目撃して、この新しいツアーがこの先もっともっとすばらしいものになること
を予感していた。

「来年も必ずまたこの街で演奏したいと思います。その時には今一番親しい友達をもうひとり連れて来
てください」

 元春、私、元春の笑顔が見たくてここまでやって来たよ。International Hobo King Band 、新しいス
タートにふさわしいすばらしいライブだった。ありがとう、元春。


エピローグ【新しいシャツを見つけに】

 終演後、地元・仙台の元春ファンたちとの待ち合わせをしていた。出待ちは断念して小さな居酒屋で
祝杯をあげる。今夜のステージについての感想が飛び交い、様々なシーンを思い出しては笑みがこぼれ
る。初めて訪れた街、仙台。ツアー初日のステージを見れたことに、そして元春の新しい出発に乾杯!

「明日からは大丈夫かもしれない」元春のライブのあと、こんな風に思うのは何度目のことだろう。そ
して私は、JR仙台駅を見下ろすホテルの一室で、この大切な思いを胸に抱きながら、眠りについた。



 
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