PARCO MEETS MAGAZINE THIS
BEAT-TITUDE
-新たなる言葉の復権にむけて-


 アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズ、ジャック・ケルアック……特異な才能の書き手たちに支
えられ、1950年代から60年代にかけてアメリカ全土を駆け巡ったビート・ムーヴメントとその中心的
な媒体であった、言葉。新奇な都市の風俗として消費されてきた、このムーヴメントは今もなお脈動を続け
ている。ビート詩人たちは、詩を肉声によって叫び、その表現は、サウンドやアートと融合して複雑なうね
りとなった。いま、それに呼応するかのように、90年代を生きる者たちの手によって、新たなる言葉の復
権が問われ始めている。時の流れや世代の移り変わりを敏感に反映し、常に変化を続ける言葉。そのめまぐ
るしい動きを追ううちに、我々はいつしか自分自身の言葉を忘れてしまってはいないだろうか。
 ビート・ジェネレーションと呼ばれた人々が、追い求めていたものをひもとくことを第一歩に、現在の東
京を取り巻く言葉を探っていきたい。同じ目的の前に、THISとPARCOは出会う。言葉の力を信じて
多くのビート詩人たちとの交流をあたためてきたTHIS編集長、佐野元春をフィーチャーして、94年1
2月、プロジェクト―BEAT-TITUDE―がスタートする。


 【Set List】

 BEAT-TITUDE――新たなる言葉の復権にむけて――1日がかりのすばらしく充実したこのイベントに参加
できたことは幸運だった。(12月3日渋谷パルコ・スペースパート3) リサ・フィリップス氏のスライド
レクチャーは途中睡魔に襲われてしまった。スライドの数が少なかったこととアートにおけるビートムーブメ
ントを具体的に受けとめられなかったことが原因・・・ヒロ・ヤマガタ氏が語った、彼の手掛けるビートジェ
ネレーションをテーマとした映画には興味を覚えた。現代アートの第一人者は、50年代のビートたちをどの
ように描き出すのだろうか。そして夜の部のスティーヴン・ワトソン氏のレクチャーは内容が面白く、目も頭
も冴えに冴えた。あぁ学生時代にこういう講義を受けてみたかったと思った。スライドで次々と紹介されるの
は、THIS NO.1(1986)以来お馴染みのビートニクたち、アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアック、
ニール・キャサディ、ウィリアム・バロウズ・・・または初めて見るような若き日の彼等の姿、そして一家の
良き父として写真におさまるニール・キャサディ、彼等の交友(恋愛)関係を1枚のシートに図にして表し紹
介されるその内容は、すべてが興味深かった。THIS NO.1が教えてくれたことをより詳しく私に与えてくれた。

 映画「PULL MY DAISY」は字幕のない30分もの、こういう時ほど英語にたけている人がうらやましいこと
はない。ジャック・ケルアックによるナレーションの3割も理解できなかったが、モノクロの映像の綴りは観
ていて面白かった。ビートニクたちの日常、何よりも若きグレゴリー・コルソ、ギンズバーグにびっくりして
しまう。ギンズバーグの詩が何編か織り込まれていて、かつて活字だけのイメージだったそれらが、音とモノ
クロの映像と結びついて新鮮に感じられた。

 夜の部、マイケル・マクルアー&レイ・マンザレクによるポエトリーリーディングパフォーマンス。アメリ
カ文学のそしてアメリカンロックの大きな流れ、歴史を感じる。ザ・バンドの解散コンサートのステージ上で
詩を朗読したマイケル・マクルアーとドアーズのキーボーディスト、レイ・マンザレク。この2人のことは元
春が紹介してくれなければ、気づかなかっただろう。詩人の鋭い眼差し、詩人の手の表情・・・マイケル・マ
クルアーの朗読は圧巻だった。一度詩の朗読会に参加したいと思っていたことが、今夜こうして理想的な形で
実現したのだ。詩とはこうして身体ごとで表現するものなのだ、こうして作者自身によって語られてこそ生き
るものなのだ、と改めて実感した。ふと気づくとレイ・マンザレクのピアノ譜面台にのっているのは音符では
なく、マイケル・マクルアーの詩、そう、彼は詩を弾いていたのだ。

 ラストは元春、デイビッド・アムラム氏、越智兄弟、この4人のコラボレーション。元春の気合いが伝わっ
てきた。鼻息や壊れそうなほどに胸を叩いたり、太ももを叩いたりのリズム取りにまず驚かされる。初めて生
で聴く越智兄弟のパーカッション、この調和したリズムの上に、デイビッド・アムラムの笛やピアノ、そして
元春の詩の朗読が重なってゆく。
「廃虚の街」「Pop Children With The New Machine」THIS(1986)に
載っていた
「国籍不明のNeo-Beatniksに捧ぐ」そして私の大好きな「自由は積み重ねられてゆく」全4編。
前の2つはアルバム「Sweet16」に収められているが、改めて思うことは元春の歌の中にはこういった文学的
要素を含む作品が多いということ。このポエトリーリーディングのスタイル、全く異なるアプローチにもピタ
リとはまってしまう。エンジ色の新しいシャツ(?)を着た元春、やはりカッコいい。デイビッド・アムラム
氏による「PULL MY DAISY」のテーマミュージックはJazzyで、一度で気に入ってしまった。胸に下げたお守
り、優しい笑顔が印象的だ。

 今回このイベントは、元春が出演することがなければ会社の休みを変えてまで足を運ぶことはなかっただろ
う。そして元春のポエトリーリーディングを第一の目当てとして参加したことも確かである。しかし全体がこ
れほど内容の濃い、充実したイベントだとは本当に期待以上で、THIS NO.1(1986)以来私の興味をかきた
ててくれている「Beat」について、こういった形式で触れるチャンスを与えてくれた元春に、雑誌THISに
PARCOに、感謝している。


 part-1 open13:00 start13:30

 13:00 スライドレクチャー
    (3日 リサ・フィリップス/4日 スティーヴン・ワトソン)
 15:00 映画上映 PULL MY DAISY
 <break=ビートの記録ヴィデオ上映>
 16:00 ポエトリーリーディング デイビッド・アムラム
 16:30 コラボレーション 佐野元春+デイヴィッド・アムラム

 part-2 open18:30 start19:00

 19:00 スライドレクチャー
    (3日 スティーヴン・ワトソン/4日 リサ・フィリップス)
 20:30 映画上映 PULL MY DAISY
 <break=ビートの記録ヴィデオ上映>
 21:30 ポエトリーリーディング マイケル・マクルアー、レイ・マンザレク
 22:30 コラボレーション 佐野元春+デイヴィッド・アムラム


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