林ワタルさんのこと


ライブ会場で熱気を体験し、身体ごと一夜のステージを受け止める。
それからまた私達は後日、ライブ映像作品を通してその日の感動を何度でも反芻する。
もういつのまにか長い間、佐野元春ファンであり
仲井戸"CHABO"麗市ファンであり続ける私にとって
林ワタルさんは貴重な映像の送り手として、また
アーティストと共に時を刻む表現者として、もはやなくてはならない存在である。

ディレクターとしての林さんとの作品の出会いは
思えば1990年の 「TIME OUT! TOUR」(佐野元春 with The Heartland)が最初であった。
当時としては画期的だったライブの完全生中継番組。
12月25日、今はなき(旧)神戸国際会館。
開局前の(まだJSBと呼ばれていた)WOWOWのその番組を
残念ながらリアルタイムで見ることはできなかったが
翌年友人からビデオをもらい、食い入るように見て楽しんだことを覚えている。
以降、林さんの送り出す元春あるいはチャボさんの映像をどれほど楽しんできたことだろう。

元春の映像を数多く手がけている人、といつしか認識していた林さんの名前を
チャボさんのビデオクレジットで見つけたのは、いつ、どういう形でだったか
実はほとんど記憶にない。
だが偶然とはいえ、自分が敬愛してやまないこの2人のアーティストに
林さんが深く関わり続けていることは、この上なくうれしい。

2000年12月27日、私は長年の憧れであった京都磔磔で
チャボさんのソロライブを観ることが出来た。狭い会場内にはビデオカメラを携えた男性。
あの人はもしかしたら.......するとチャボさんが「Who'll Stop The Rain」のあと
「林ワタルだぁ〜こいつだ〜林くん!」と叫びながら指さしてくれたおかげで
林さんの姿を目に焼きつけることとなる。
以後、2001年7月のZepp 福岡(佐野元春 and The Hobo King Band)
9月の鎌倉芸術館(佐野元春+井上艦)、10月のSHIBUYA-AX(仲井戸"CHABO"麗市)
12月の京都磔磔(麗蘭)、2002年2月の鎌倉芸術館(宮沢和史+仲井戸"CHABO"麗市)
と林さんの姿とその仕事ぶりを拝見することができた。
最も忘れられないシーンは、10月9日
この日51歳を迎えたチャボさんに極秘で用意されていたギターの形をした特大ケーキ
その登場に驚くチャボさんの姿を、林さんがステージ上でカメラを構え
「笑顔」でとらえていたその場面である。
そこにはチャボさんとスタッフとの深い絆を感じさせる暖かい空気が流れていた。
そんな空気があるからこそ、長年撮り続け、はたまた撮られ続けることができるのだろう.......
などと、いちファンとして感じていた。

林さんの映像で好きなものをいくつかあげるとすれば、まずはドキュメンタリー部分である。
私達ファンは決して触れることの出来ない、しかしアーティストにとって普遍的な日常。
自然体で佇む彼等の表情を、時に自然と融合した大らかな空間の中
時に緊張感漂う空間の中で、さりげなく垣間見せてくれる。
さらに、ステージ映像で時折登場する画面いっぱいの表情のアップ撮り。
そして、言葉はなくともその表情や一瞬のアイコンタクトで交わされるメンバー間の心の対話。
私達が触れたい映像を、そのステージの持つ熱やパワーとともに最良の形で届けてくれる。
それがアーティストへの深い愛情を隠すことのない林ワタルさんの作品だと思う。

林さんの作品を追うことは
音楽とともに人生を歩んできた私自身の成長を追う作業でもある。
ひと味違った映像作品レビューとして、楽しんでいただけたならうれしい。

今回、この作品紹介ページを作成するにあたって
過去、ビデオ作品のインナーとして書かれた文章の転載を
ある日の京都磔磔で、快く了解してくださった林ワタルさんに心から感謝します。

                              Esme 2002年 春


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