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『池のほとりで』

曹操「おお、子桓、子文。子建も来たな」
曹丕「なるほど、これが孫権から贈られてきたという象ですか」
曹彰「へえぇ、大きいものですねぇ」
曹植「山が動いているようですね」
曹丕「ところで、この池は…」
曹操「象の飼い方の覚え書きが一緒に届いてな。水辺で飼うのが良いと
   あったので、作らせたのだ」
曹丕「しかし、象一頭のために何もこんなに大きな池を」
曹操「何、貯水も兼ねておる。象を見ながら船遊びもできるが」
曹沖「父上〜」
曹操「おおっ、倉舒か」
曹沖「うわぁ、これが象ですね。凄いなぁ、こんなに大きいなんて」
 象「ぱお〜ん」
曹操「うーむ、重さはどのくらいあるのかのぅ」
曹植「量ることはできないのですか?」
曹操「あんなに大きな象を載せられる秤が無い」
曹丕「簡単ですよ父上」
曹操「何か名案があるか、子桓よ」
曹丕「象の体をばらばらに切って、一つずつの塊を秤に載せ、
   後で重さを足し合わせれば良いのです」
曹操「…理にはかなっておるが、もう少し穏やかな方法は無いか」
曹彰「人ひとり乗れるくらいの秤はあるのでしょう」
曹操「うむ」
曹彰「それがしが象を抱えてその秤に載ります」
曹丕「…」
曹操「…何もかも間違いすぎていて説明する気もおこらんわ」
曹彰「???」
 象「ぱお〜ん」
曹操「子建、おまえは何か思いつかんか」
曹植「象の重さでございますか」
曹操「そうだ」
曹植「…如何に重いといえども彼の人の命ほどではなく、
   軽くとも彼の人のもとへ向かう私の心ほどではなく…」
曹操「いや、詩は作らんで良い」
曹沖「あの、父上…」
曹操「ん、何じゃ倉舒」
曹沖「思いついたことがあるのですけれど」
曹操「ほう、聞かせてくれ」
曹沖「まず、象を小舟に乗せて、池に浮かべて下さい。
   船がどこまで水に沈んでいるか、印をつけるのです。
   そうしたら象を降ろして、今度は船に石を積んでいきます。
   船がさっきの印と同じ深さまで水に漬かったら、そのときに
   船に乗っている石の重さを一つ一つ量って、足し合わせれば
   象と同じ重さになるはずです」
曹操「うむ、良い考えだ」
曹彰「でも象と同じ重さなんて、そんな大きな石は山に行かないと無いぞ」
曹丕「いや、そんな石では結局秤に載らないし…
   どうしてこいつの間違いは説明が難しいんでしょうね父上」
曹操「誰か、小舟を持って来させろ」
曹丕「聞かなかったことにするおつもりですね…」
曹沖「父上、小舟が参りました」
曹操「よし、池に浮かべて、象を乗せろ」
 象「ぱおぱお〜ん」
曹彰「うわっ!」
曹丕「大変だ、象が暴れて、船が…」
曹操「船が沈む、象が溺れてしまうぞ!」
曹沖「待って下さい父上、溺れはしないようです」
曹操「…おお!」
曹丕「ほう、象は泳げるのか」
曹沖「凄いですよね!知りませんでした」
曹彰「俺も泳げるぞ」
曹操「象と張り合うな象と」
曹彰「あ、そうだ」
曹操「こらこら衣を脱ぐな、泳がんで良い」
曹彰「船が沈んだところに印をつけるんでしょう?
   ちょっと潜ってつけてきますよ」
曹丕「いや、あのな…。子建、おまえも何か言ってやれ」
曹植「水面を乱す象のごとく…彼の人の微笑みは我が心を波立たせる…」
曹操「だから詩は作らんで良いと言うに」
曹丕「だいたいおまえさっきから彼の人彼の人って誰なんだいったい」
曹操「それは訊かぬが良いと思うぞ」
曹丕「何か御存知なんですか父上!?」
曹操「ほら見てみろ倉舒、象があんなに気持ちよさそうに」
曹丕「父上ー!」
曹沖「本当ですね、それに子文兄上も」
曹操「象と同類かあいつは」
曹丕「そう言えば誰も止めなかったのか…」
曹操「まあ楽しそうだし、しばらく泳がせておくか」
曹丕「父上がおっしゃると敵方の間諜か何かのことにしか聞こえません」
間諜「はっくしょい!」
曹丕「ん、今のは?」
曹彰「いやぁ、泳ぐにはさすがに早いですね、冷えてしまいました」
曹丕「何だ子文か…」
曹彰「あ、しっかり印はつけてきましたよ。次はどうするんでしたっけ?」
曹沖「父上、あの象に甲羅をつけると、大きな亀のようになりますね」
曹操「亀、か。そう見えんこともないな」
曹植「大きな亀…まるで玄武のような」
曹操「ははは、よし。この池にはまだ名が無かったな。
   玄武池と名付けることにしよう」
曹沖「重さは量れませんでしたけど、象が泳げることがわかって
   知識が増えましたね」
曹操「いや、せっかく倉舒が出してくれた名案だ、重さは必ず量ってみせるぞ」
曹丕「しかし、小舟では沈んでしまいますし、大きな船では象を乗せても
   喫水線があまり変わりません」
曹操「もっと丈夫な船を作らせろ。小さくとも重みに耐えられる船だ。
   それから、象が暴れないようにするのに、兵を使おう」
曹丕「…」
曹操「どうした」
曹丕「いや、また子文が何か言い出すかと思ったのですが」
曹操「そう言えば、子文がおらんな?着替えか?」
曹沖「子文兄上でしたら、象と同じ重さの石を探しに山へ行くとおっしゃって」
曹丕「止めろよおまえも!」



間諜「殿!曹操が船の増産を命じております!
   新たに池を作り、兵士を集めて自ら指揮を執っている模様!」
孫権「水軍の練兵か!ううむ、せっかく象を贈ったというのに…友好策は通じなんだか」



<終>

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 ああ…念願の曹家ネタなのに…こんなのですか>自分
 何故か曹熊くんが呼んでもらえてませんし、象の話と玄武池の話では年代が合わない
 ような気もしますが(^^;)
 午前3時半までかかって何書いてるんでしょうか私は。
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