日本、フランスに続く新幹線第三弾。最高時速280キロを誇る超特急ですが私が見た営業速度の最高は250キロで「のぞみ」とほぼ同じレベルでした。スピードは車内の電光掲示板に時々表示されます。
実際は専用軌道がまだあまりできていないために在来線を走ることが多く実用最高速は時々200キロを出す程度であることが多いです。そのため、所要時間は東京・大阪間程度の距離で5時間以上はかかるのが現状で、ICEはまだ発展途上の高速輸送システムという印象です。特にベルリン・ミュンヘン間はフランクフルト経由だったりするので(最短コース便もあるのかは不祥)、目的地によっては相当時間がかかり、結果的に飛行機を利用する人も多いようです。そうは言っても在来線でも日本の新幹線と同じ広軌なのでICやIR(インターレギオ・遠距離急行)も含めて、日本の在来線よりは相当スピードを出しています。客車型特急のICなどが猛スピードで突っ走るのは少しビビリます。
ICE専用軌道でないところでは車窓がかなり近かったり、専用軌道でも立ち入り禁止用の防護柵が無い場所があったりと、高速輸送機関に必要な安全施設が足らず事故に対する危険を感じさせる部分も散見されました。98年の春にこのICEが大事故を引き起こしたのは記憶に新しいところです。そんな点から見ても、輸送システムとしては設備が徹底して揃っている日本の新幹線に一日の長がある感じは否めません。
在来線を走るせいでしょうか、日本の新幹線のように別格扱いという雰囲気は余り無く、停車するホームも思いきりローカルなムードです。各駅停車小田原行きの後に、同じホームにひかり号が入線してくるようなイメージでしょうか。さらに、ICEは在来線を走っているおかげでドイツ全土をくまなく結んでおり、超特急としての意味合いは薄くなるものの、相当な山間部の田舎まで乗り入れるような便もあり、運用体制はかなり柔軟であると感じました。
便数は1路線で1時間に一本程度と、日本の基準からすれば少ないですがDB全体の便数が日本よりも少ないのでICEだけが不便とは感じません。利用客は優雅にのんびりと列車到着を待っています。しばしばある5分程度の遅れも気にしていないようです。綿密に組まれた乗換の接続に支障をきたすことがあまり無いためでしょう。
車内に目を転じてみれば、1等車が3〜4両、食堂車が1両(私は食欲不振のため一度も利用せず)、8〜9両が2等車、プラス両端に客車と同デザインの電気機関車が各1両というのが標準の編成のようです。私の旅行中は2等車の席の競争率が高いように見えました。正規運賃が1.5倍の1等車は当然のように空いています。ちなみに等級の区別はSバーン以外のほぼ全ての列車、電車に設けられています。2等車しか連結していないものも多いのですが。
座席配置はDBに共通の方式を採用しており、1等車の場合で説明すると、6人掛けのコンパートメントと、ゆったりしたオープンシートの混合です。特にオープンシートはサロンカーと呼べる程ゆったりしており、座席は凝った形状でテレビ・雑誌付、車掌が料理や飲み物の注文を受けて持ってきてくれる(私はこのサービスをしばしば利用)など大混雑を念頭に置いていない輸送システムであり、座席がズラリと並ぶ日本の新幹線とは全く発想の異なるものであります。しかも1等車はとても空いているので、乗客はテーブルに車掌が運んできたビールを置き、隣の椅子には荷物を置き、向かいの席には自分の足を投げ出し、と少ない椅子を思いきり贅沢に使って優雅な列車の旅を楽しんでいます。良くも悪くもヨーロッパらしい光景だと感じました。
2等車はこのゆったり感がだいぶスポイルされ、日本の新幹線のイメージに近くなります。
ICEに限らず特急列車には人名が付けられており、その列車専用の時刻表がパンフレット形式で座席に置かれています。これは停車駅への到着時刻や乗換便の案内などが機能的に記されているのでとても便利ですが、指定席へのカード差込と同様にとても手間がかかるサービスだと思いました。人名は音楽家の名前が多いように思います。外国行きの列車には行き先の国の著名人の名前がついています。「アインシュタイン」などドイツが追い出したような人の名前までが使われているのは少し図々しい感じがしましたが良い習慣だと思いました。
ICEはノスタルジックなデザインが多いDBの列車の中でも際立ってモダンな列車です。中央駅に停車していたりすればかなり人目を引きます。ドイツに行かれる方はぜひ一度乗ってみて欲しいと思います。