富士山登山記

1998年9月3,4日

 

大学2年の夏休み、高校のころの友達から電話があった。
「富士山に登らないか?」、突然だった。
その頃の私は東北鈍行旅行を終えて、香港一人旅まで暇な日々を送っていた。
バイトが空いている日ならと、OKした。
トントン拍子で話は進んだ。
メンバーは私を入れて3人。二人とも高校2,3年の時のクラスメイトだ。
高校卒業後もたまに会って飲んだりしていた奴ら。

予定ではまず車で五合目まで行く。
昼過ぎに登り始めて8合目付近で一泊。
明け方に再び登り始めて頂上で御来光を拝む。
…といった感じになった。
ただ天気予報だと、当日の9月3日は曇り一時雨。
天気だけが心配だった。

 

9月3日 木曜日

とりあえず雨は降ってなかったのでひとまずは安心。

仲間の一人の車で行くことになっているので、朝9時に新宿集合。

久しぶりに朝の新宿方面行きのラッシュ電車に乗った。

登山用の荷物を抱えての満員電車は辛かった。

私と一人は時間通りに来たが車を出してくれる奴が遅れた。

しかし車を出してくれているのであまり文句は言えぬ。

結局9時15分に車に乗り込み出発。

雲行きは一進一退で、雨が降りそうで降らないといった感じ。

雨が降ったら富士急ハイランドで遊んで帰ろうなどという危険(?)思想まで飛び出した。

でもなんとか天気はもってくれた。

目指すは御殿場I.C、休憩を一回とって河口湖付近にやってきた。

近くの飯屋で名物「ほうとう」ってやつを食った。

うどんみたいな麺(うどんより太くて大きさもまばら)が色々な具が入った鍋の中に入っている。

 

食後は河口湖近くのコンビニで登山用の食料調達。

1.5リットルペットボトル2本(スポーツドリンクと紅茶)。

食パン2塊、缶詰3缶、日本酒3カップ、酒用の肴。

その他に各自500mlペットボトル1本ずつ。

買い出しは以上。

 

富士スバルラインを使って5合目まで車で登る。

途中から雲(霧?)の中を走っていたので少し恐い、一寸先は霧。

5合目は既に雲の上、お土産屋とかがあって観光スポットといったところ。

大きな観光バスも止まっていて、大勢の観光客もいる。

5合目で標高が既に2200m。

この時点で恐らく私が立ったことのある最高標高に立っていることになる。

しばらくその土産屋などをウロウロした。

自販機があり、富士山のイラストが書かれたビールがあったから買ってみた。

そしたらサ○ポロ●ラベルが出てきた。

ただ缶に富士山のイラストが書いてあるだけだった。

早速飲もうと思ったら予想通り栓を開けたとたんに泡があふれてきた。

これから登山しようと思った直前にビールを飲んでいる我々って…。

5合目の観光地からスタート地点に来るまでにも結構な距離があった。

さすがにそこまで行くと観光客はいなかった。

雲を下に見下ろし、また上を見ても雲、時には霧中を歩いた。

行くぜ!
「これを登るんだなー」5合目観光地からスタート地点までの道。

15時ごろに5合目について、なんだかんだで15時30分頃に登山開始。

「富士登山道吉田口」なるところからスタート。

スタート地点
スタート地点、富士登山道吉田口

 

最初はワイワイ登り始めたが、スグにきつくなった。

山道特有のクネクネ道。

雪崩防止のためにネットのようなものもあって、かなり人工的に作られた道だと感じた。

登り始めたのが夕方だったし9月に入っているということもあって、登山者は少なかった。

大体クネクネ道を2つか3つ曲がったところで小休止を取りつつ進んでいった。

休憩中にカナダ人と称するカップルと少し仲良くなった。

片言の英語と日本語でぎこちない会話。

富士山でほんの少しの国際交流、なんだか良いね。

天気は曇り、時々霧が出て視界もイマイチだった。

クネクネ道は面白みがなかったがそこを終えると岩道に入った。

岩道になると急に疲れた。

これまでは普通に坂道を歩いていた感覚だったが、岩を登らなければならないのだから。

逆に言えばいよいよ登山らしくなってきた、といったところだ。

 

登って休みを繰り返し、7合目の山小屋の前で休憩していると山小屋から兄ちゃんが出てきた。

当初は8合目の山小屋で1泊する予定だった。

しかしその兄ちゃんの客引きに合いその7合目の山小屋に泊まることになった。

時刻は17時、チョット早かったけれどこの日はそこに落ち着くことにした。

 

山小屋に入ると畳のだだっ広い部屋。他の登山者はまだいないようだ。

どうやら兄ちゃんと、お婆ちゃんでやっている山小屋。兄ちゃんはバイトだという。

汗をかいていたから気がつかなかったが落ち着いてみるとかなり寒かった。

山小屋内の囲炉裏(いろり)がとても暖かかった。

18時頃に晩飯を食うことに。

メニューは購入しておいた食パンにピーナツバター、角煮缶詰、ピリ辛おかき、日本酒。

「用意が良いねぇ」兄ちゃんに言われた。

それだけでは足りなかったので各自山小屋のうどんを注文した。

うどん一杯600円なり。

 

山小屋の兄ちゃん曰く御来光は明朝5時30分頃。

御来光を頂上で拝みたければ2時には出発した方が良いとのこと。

2時出発はきつそうだがとりあえず2時には起きて様子を見てみようということになった。

(ちなみに兄ちゃんに言えばその時間に起こしてくれるという)

行けそうだったら行ってみよう、ということに。

19時30分には寝床に就いた。

山小屋のベッド(?)は押し入れみたいな感じ。

横に広ーい押し入れ、そこにふとんが何枚も敷いてある。

他の登山客はまだいなかったので我々だけの貸切状態だった。

 

翌朝(?)2時に起きてみるととっても寒い。気温は3℃だという。

兄ちゃんが言うにはこの分だと山頂は間違いなく氷点下だという。

とりあえず外に出て見ると満点の星空。

本当に満点の星空でどれが北斗七星かだなんて分からないほど星がたくさん見えた。

まだ9月だというのに空にはオリオン座が綺麗に見えた。

未だかつてあんなに綺麗な星空を見たことがなかった。

その星空だけでも富士山に登った甲斐があったと思えるほどだ。

星空はともかく、このまま先へ進むか否かの選択を迫られた。

かなり寒いし暗い、進む道は岩道、懐中電灯は持っているが危険と判断した。

よって予定変更、御来光を山小屋で拝んでから登り始めよう、ということで再度就寝。

トイレで用を足してから再び眠りについた。

 

 

9月4日 金曜日

5時に再び起床。外に出ると下界は一面の雲。

そしてその雲の下から太陽が!!

御来光!

太陽が昇っているというのが目に見えて確認することが出来た。

一面の雲海の下から太陽が昇る光景は文字通り素晴らしいの一言。

昇ってきた太陽に照らされた雲海もまた素晴らしく綺麗だった。

あれは一見の価値がある。

前夜の星空とこの御来光、共に素晴らしいものだった。

御来光
写真ではあまり伝わらないが素晴らしき御来光。

 

朝食は前日の食パンの残りと缶詰。

さらにうどん(600円)も食べて6時に出発。

ここからの山道はただただ岩・石・砂利。

特別息苦しいなどとは思わなかった。

しかし少し歩くとスグに疲れがきてその都度小休止を取った。

座って休むと偏頭痛があった、やはり気圧のせいだろうか。

お互い「次はあそこで休もう」と決めてから登り出す。

恐らく登山時間よりも休憩時間のほうが長かったのでは。

頂上を目指す1つの目安である本八合目に到着。

八合目付近には山小屋が結構たくさんある。

当初の予定ではここで一泊して山頂御来光の予定だった。

あと一息
本8合目、「うーん、ここまで登って来たのか…」「あれに見えるは頂上か。」

本8合目を過ぎてから上の方に鳥居が見えてきた。

「あれが頂上かな?」

「いやぁ、さっき本八合目だっただろ。まだ九合目着いてないでしょ」

「じゃぁあれは九合目か、きついなぁ」

休んじゃ登り、登っちゃ休むを繰り返して10時30分。

遂に頂上に到着した。

我々が九合目だと思っていた遠くから見えた鳥居が頂上の鳥居だったのだ。

てっきりその鳥居は九合目だと思っていたからチョット拍子抜けした。

遂に、富士山頂
念願の山頂鳥居にて、一人で登ってきたというおじさんに撮ってもった。
 

頂上は最高に気持ち良い。

頂上に吹く風の涼しさとここまで登ったという達成感がたまらない。

この達成感のために登ってきたんだな。

下界は一面の雲、上には太陽。

頂上で会った今年8回目の登頂というベテランオジさんは

「今日の頂上はなかなか良いよ」だそうだ。

万年雪は見られなかったが火口ではツララをたくさん見ることが出来た。

火口はとっても深く、滑り落ちたら上がってこられないだろうなという感じ。

恐いよー
富士山火口。この写真では確認できないが向こう側には富士観測所がある。

 

富士山頂でしばし休憩と観賞に浸った後に11時、下山開始。

また来る日まで…
Good Bye 山頂

下山道はひたすら砂砂砂。

降りるというより滑るという感じで下っていく。

1歩足を踏み出し前に体重をかけると勝手に滑って行ってくれる。

あるいは体が勝手に前のめりになるので次の足を出さずにはいられない状況。

滑り降りるか、駆け下りる、という感じ。

滑り降りろ!
ま、こんな感じ。

気持ち良かったがなかなか止まらなく、バランスを崩したらこけてしまう。

実際に前を行く友の姿が急に消えたと思ったら前方でこけていた。

下山は霧が凄かった。すぐ前の友の姿も見えないほど。

山の天気は変わりやすいというがまさにその通り。

霧が出たかと思うと晴れて、また霧が出る。

雲を見ているのも面白かった、一時として同じ景色(雲)はなかった。

見るたびに雲の形は変わっていた。

下りの休憩は登りよりも段然少ない回数で済んだ。

しかし休む度に膝がガクガク笑って大変だった。

14時、スタート地点の5合目に到着。

無事に戻ってこられたことと心地よい達成感に浸った。

お疲れー
終わったぞー!!、の図。

5合目でしばしの休憩の後に車で帰宅。

ドライバーさんは本当にお疲れ様でした。

 

 

富士山登山まとめ

久しぶりにとっても心地よい充実感と達成感を味わうことが出来た。

登山者は普段がどの位いるのか分からないが少なかったと思う。

とりあえずすれ違ったら「こんにちは」。ほぼ100%の確率で挨拶が返ってくる。

「登山」という共通目標を持っているからだろうね。こんにちはで元気が出る。

緑は5合目まで、それより上には皆無といって良い。コケはあったけれど。

登山道も頂上に近づくと砂利や石・岩になる。

砂利は火山灰の影響だろう赤いものが多々見られた。

歩くと陶器が割れたようにカシャカシャ音がした。

景色は雲を眺めているだけで飽きない。

富士山には水がなく、トイレは基本的に垂れ流し。

山小屋の兄ちゃんは気圧の関係で初めての登山者は大きい方はでないと言っていた。

だが私は2日目の朝に大きい方が出た。

トイレは一応便器はついているがいわゆるボットン便所。

ボットン便所といっても下に見えるのはそのまま富士山の岩場。

ただ筒抜けになっているだけなので風がスースー尻にあたり、とても寒かった。

トイレを出たところには「手洗い水」というのが洗面器に入っていた。

だがしかし、その水がものすごく濁っていたので敢えて手は洗わなかった。

なんでも富士山には水がないという。

だから山小屋等でも水をひくことができないので水は貴重だという。

5合目の土産屋でも「富士山に水はありません。麓から持って来ているので水は貴重品です。」

みたいなことがトイレに書いてあった。

それなのに売店では「富士の天然水で作ったビール」なるものが売られている。

どういうこと?

富士山登山後の9月5日。

自宅にて、朝起きたその瞬間から筋肉痛。

尻から下の全ての部分で筋肉痛。

トイレの便器に座るときもかなり痛い状態。

まともに生活するのも少々苦だった。

久しぶりの運動が富士山登山だったから体もさぞかし驚いたことでだろう。

 

 

参考資料

富士山の物価(?)<1998年9月現在>

山小屋はどこでも素泊まり 5,000円、1食付ける毎に+1,000円

ラーメン・うどん・おでん・ビール各600円(これは山小屋によって値段が変わる)

日本酒400円、ジュース300円(これは山小屋によって値段が変わる)

 

服装(1998年9月)

下はジーンズ、上はTシャツの上にネルシャツ。基本的にはこれで十分

しかし朝はこれだけでは寒い。

 

食料

3人で1泊2日の予定で

初日の晩飯 食パン(6枚切り)2枚、豚各煮缶詰1缶、うどん、日本酒1パック

2日目の朝飯 食パン(6枚切り)2枚、サバ味噌煮缶詰、牛肉缶詰各1缶、うどん

飲み物は3人で1.5リットルペットボトルを2本

各自で500ミリリットルペットボトルを1本で丁度良かった。

間食はコンペイトウを持って行ったのが役に立った。食べながら歩けるし。

 

 

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