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<高知新聞7月18日(土)朝刊P.1>

十和村補助金判決
「2神社を特別援助」
 高知地裁 政教分離に反す

 (高知県)幡多郡十和村が平成五年に村内の二つの
神社に修復費として補助金を出したのは違憲として、
安岡宏高・前村長(六三)に補助金計六百万円の返還
を命じた十七日の高知地裁(水口雅資裁判長)判決は、
「宗教団体(神社)の修復目的の公金支出であり、両
神社へ特権を与えた」と明確な違憲判断を示した。
昨年四月の愛媛玉ぐし料訴訟の最高裁判決以降、政
教分離をめぐる憲法判断は全国で初めて。
      (25面に判決要旨、27面に関連記事)
訴えていたのは、同村昭和、会社役員、国沢末春さ
ん(六八)ら六人。
判決は、まず対象となった古城八幡宮と大井河神社
について「両神社は集落住民の氏子集団を有する宗教
団体であり、社殿は宗教上本質的かつ重要な行為を行
う場所」と認定。補助金の支出先について「交付先は
氏子集団であり、結局は両神社に対しての支出と同視
し得る」と判断した。
補助金が「社殿の修復費用」と明示して申請されて
いた経緯を踏まえ、「村は補助金が社殿の修復費用と
いう使途を十分に認識していた」と指摘。「補助金は
各神社それぞれ三百万円と少なくなく、それぞれ修復
費用全体の二分の一以上を占める」とした。
そのうえで、被告側の「補助金の支出目的は神社
社殿で舞われる神楽の保護のため」という主張に対し
て、「神楽は神社以外でも舞われることもあり、神楽
を保存する方法は舞台を確保することだけではなく、
ほかにもある。今回の補助金の神楽に対する保護の効
果はごくわずかだ」と否定。
さらに、被告側の「両神社は集落の集会所で、村の
有形文化財でもある。その保護のための支出だった」
との主張についても、「集会といっても大部分が神社
の祭り関係の集会であり、それ以外の集会はほとんど
ない」「有形文化財の指定は平成七年であり、公金支
出のための手段として指定したと認められる」と退け
た。
こうした事実認定を踏まえ、今回の補助金の支出目
的を「宗教団体である両神社の保護、維持のためだっ
た」と断定。さらに「一般人に対し、村が両神社を特
別に援助し、特別のものとの印象を与え、両神社に特
権を与えたというべき」として政教分離を定めた憲法
八九条、憲法二〇条一項後段に違反するとして明確に
違憲判断を示した。

●意義ある判決  原告代理人・田村裕弁護士の話 原告の主張を全面
的に認定した判決だ。昨年の愛媛玉ぐし料訴訟判決か
ら今回の結果は予想されたことではあるが、あらため
て地方公共団体の責任者が宗教施設に対して安易に支
出しないよう警鐘を鳴らしたといえる意義ある判決
だ。

●過疎地の実態無視
被告代理人・田本捷太郎弁護士の話 過疎集落の住
民と神社の関係の実態について全く取り組まず、形式
論に終始した判決だ。こちらの主張はことごとく否定
されており納得いかない。控訴の方針で被告と検討し
ている。

(写真)助金で修復された十和村の古城八幡宮
(平成6年5月)
(写真)
水口雅資裁判長
<高知新聞98.7.19,第1面>
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高知新聞7月18日社会面(p.27)掲載記事から

<政教分離> 自治体に厳格な枠
 十和村の神社補助金違憲

幡多郡十和村による神社修復費ヘの補助金支出を違
憲とした十七日の高知地裁の判決は、自治体と宗教と
のかかわりに厳格な枠をはめ、明確に一線を画したと
いえる。政教分離の原則をめぐる主な憲法訴訟は、津
地鎮祭や箕面忠魂碑移転、愛媛玉ぐし料などの各訴訟

がある。これまでに最高裁は前者二つを合憲、愛嬢玉
ぐしを違憲と判断した。その基準は、「(公金支出な
ど)宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的、効
果を判断し、そのかかわり合いが社会的、文化的諸条
件に照らし相当と判断きれる限度を超える場合に、宗
教とのかかわりを許きない」という、いわゆる「目的
効果基準」だった。(1面参照)

<説 解>

 

原則かけ離れた支出
   神経使う県内他市町村


今回の判決は直接の表現はないものの、やはりこの
基準を適用。地域に密着し宗教性も高いとはいえない
神社を「憲法でいう宗教団体」としたうえで、補助金
支出の目的は「宗教団体である神社の修復」であると
認定。「村が特別に支援し、他の宗教と異なる印象
を与え、特定宗教への関心を呼び起こす」効果がある
とした。極めて明快な論理展開だ。
 逆説的にいえば、それだけ今回の補助金支出のあり
方が、政教分離の原則とはかけ離れていたとの見方も
できる。補助金申請の手順−−村側の認識−−請負契
約−−実際の工事と、各段階でことごとく原告側の主
張を採用。支出先の氏子集団と神社は同じだとした。
その点、県内の他の市町村ではこうした公金支出に
対し神経を使っている様子がうかがえる。住民からの
要望があっても、神社など建物そのもの改修は、指定
文化財を除いて基本的に断るケースが多い。
 県中央部のある町では、「微妙な判断が必要な時は
必ず庁議に諮る。過去に神社境内に農村公園としてべ
ンチやトイレを整備したが、相当協議した。最終的に
は公共性が高いとの判断で踏み切った」という。
また別の白治体では神社の壁が崩れたり、屋根の改
修要望が時々出される。しかし業者にボランティアの
依頼をして、実費のみを氏子でまかなう方法をとって
いる。
現在、県内には宗教法人登録している神社は約二千
百六十。地元住民だけでは施設の維持管理が難しくな
っているケースもある。しかし今回の判決は、それで
も政教分離の一線を越えてはならないことを明示し
た。(社会部。堅田正剛)

<原告>「選挙目当てで当然だ」
<前村長>「実情認められず残念」

この日、判決言い渡しが行われた高知地裁六号法廷
には、憲法判断が出されるとあって多数の報道陣が詰
めかけた。「被告は十和村に対し六百万円および・・
・」。水口雅資裁判長はやや高い声で原告勝訴の判決
を言い渡し、わずか二、三分で閉廷した。
原告代理人の田村裕弁護士は、勝訴は確認したもの
のすぐには憲法判断の中身は分からないまま。いく分
か顔を紅潮させながら、すぐ近くにある白分の事務所
へ向かった。
この後、原告本人の竹内寿正さん(七八)と宮岡実さん
(六〇)が同事務所でそろって記者会見。竹内さんは「訴
えが認められたことに大変満足している。今後は行政
に公金支出の考え方を改め、憲法や法律にのっとっ
た執行をしてほしい」とコメント。宮岡さんは「当然
の判決だ。前村長の行為は、実質的には選挙目当て
の補助金だったとみている」と話していた。
一方、安岡宏高・前十和村村長(六三)は自宅で代理人
からの連絡で敗訴判決を聞いた。「地域文化の伝承保
護の中心にお宮があり、その維持管理が難しくなって
いる実情が認められなくて残念だ。行政マンとしての
集落振興への期待が、政教分離の原則で一刀両断にさ
れた感じだ。判決をよく読んだうえ、弁護士と相談し
て今後の対応を決めたい」と淡々とした表情で話して
いた。
<写真>
判決後、記者会見する原告の竹内さん=1左端=と宮
岡さん=中央(高知市丸ノ内1丁目の弁護士事務所)
-------------------以上高知新聞から------------


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