4.ランナーの健康学
4.1、コレステロールとは何か?
4.2、効率良く走るために体脂肪を減らそう
4.3、ランナーの大敵、”鉄欠乏貧血”
4.4、ランニングで血管は10歳若返り
4.5、汗かきと汗をかかない人の違いは?
4.6、最も効率よく体脂肪を減らすには、毛細血管を発達させること
4.7、ランナーは風邪をひきやすい?!
4.8、熱中症で人が倒れたら!
4.9、夏のランニングでは水分補給を!
4.10、ランニングの死亡事故を考える
4.11、ベスト体調でのぞむは
4.ランナーの健康学
4.1コレステロールとは?
コレステロールが多すぎると心筋梗塞の原因になると言われています。
血液中のコレステロールは血液に溶けないので、タンパク質と結合して
「リポたんぱく」という粒の形で血液中を流れます。
リポたんぱくは大きさや比重の違ういくつかの種類に分けられますが、
HDLコレステロールはLDLコレステロールがこの代表的なものです。
比重の低いLDLコレステロールは肝臓から他の臓器にコレステロールを運ぶ役目をしますが、
多すぎると動脈硬化の原因となるので「悪玉コレステロール」と言われています。
これとは反対に比重の重いHDLコレステロールは血管壁などに付着する余分な
コレステロールを包み込んで肝臓に戻す働きをするので
「善玉コレステロール」と呼ばれています。
ランニングの効果は、中性脂肪の減少とHDLコレステロールの増加に現れてきます。現在のところ、総コレステロールとLDLコレステロールについては運動によって変化がないと言われています。
血液中の脂肪の基準値(mg/dl)
- 総コレステロール 160〜220
- 中性脂肪 40〜150
- LDLコレステロール 140以下
- HDLコレステロール 40〜60
LDLコレステロールの値は
- (総コレステロール)ー(HDLコレステロール)ー(中性脂肪×1/5)
という計算式で算出できる。
LDLが多すぎたり、HDLが少ないと動脈硬化が起こりやすい。
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4.2効率良く走るために体脂肪を減らそう
余分な筋肉や脂肪は走るのにマイナス。特に体重に閉める脂肪の割合(体脂肪率)は少ない方が有利です。
マラソン完走に必要なエネルギー量は2000〜3000キロカロリーです。
運動のエネルギー源は主に身体に蓄えられている炭水化物と脂肪です。
炭水化物は血液中のグルコース並びに筋肉と肝臓に蓄えられているグリコーゲンです。総量はそれぞれ約20グラム、350グラム、100グラムです。炭水化物は1グラム当たり4キロカロリー
のエネルギーを産出するので、これらをすべて使い尽くしても約1900キロカロリーで42.195キロはもちません。
炭水化物と並ぶエネルギー供給源は脂肪です。ゆっくり長時間かけて走ると脂肪からのエネルギーの供給の割合が多くなることは知られています。一方走るスピードが速くなるにしたがって、炭水化物からのエネルギー供給の割合が高まります。
脂肪は1グラムあたり9キロカロリーのエネルギーの産出が可能であり、身体には少なくとも10キログラムの脂肪が蓄積されています。
仮に2000キロカロリーを脂肪から供給したとしてもそのごく一部の250グラムで十分です。これ以外の脂肪は走るとき荷物となります。
もし現在の体脂肪が男性で25%、女性で30%を越えているようであれば少なくとも5%程度は脂肪を減らしたいものです。
そのためにはエネルギー消費を増やし、エネルギー摂取を減らしていけば良いことになります。
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4.3ランナーの大敵、”鉄欠乏貧血”
鉄欠乏性貧血は運動選手によく知られてしますが、その原因は
- 腸管からの鉄吸収の減少
- 鉄の需要に対して補給が追いつかない
- 運動に基づく赤血球の機械的溶血
- 発汗に伴う鉄の喪失
このうち最も多いのが足底に負荷がかかる運動を続ける事による溶血、運動時の筋肉の収縮により、筋組織内毛細血管での溶血、発汗、血尿、消化器管からの出血などによる鉄喪失が貯蔵鉄減少の原因となります。
長距離走の成績と持久力(最大酸素摂取量)、血中ヘモグロビン量との密接な関係があることが報告されています。
血色素(ヘモグロビン)は鉄を含むヘムとゴロビンというたんぱく質との複合体で、赤血球の中に満たされています。ヘモグロビンは酸素を体中にくまなく運ぶという重要な働きをしています。
ここでヘモグロビンの合成には鉄が必須の栄養素です。しかし残念ながら鉄を豊富に含む食物はあまり多くはありません。よくホウレンソウと言いますが、野菜の中で多少鉄分が多いという程度ですから、鉄分を積極的に補うにはレバ−や血のしたたるようなステーキが良いでしょう。
- 鉄を含む食品一覧
- ひじき(乾燥)、煮干し、干しアミ、豚レバー、焼き海苔、干し海苔、しじみ、ごま、切り干し大根、大豆、凍り豆腐、パセリ、きな粉、鶏肝臓、ヤツメウナギ、湯葉、アユ、レバーソーセージ、アサリ、小麦杯芽、レバーペースト、いんげん豆、鶏卵、牛レバー、ほうれん草、他
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4.4ランニングで血管は10歳若返り
日頃からランニングしている人は、そうでない人と比べ血管が10歳ぐらい若々しいという結果が出ている。
ランニングをしているとどうして動脈硬化の進行を遅らせることが出来るのか。
その答えは、ランニングすることによって、血液が固まりにくくなるためです。
血液には、自らを凝固させるための成分と、それを溶かすための成分とが、ともに含まれています。
ところが、この血液を凝固させる能力が、動脈硬化の原因にもなってしまいます。血管壁にコレステロールをはじめとするさまざまな物質を付着するのも、この能力があるためです。また、場合によっては血栓という血液の固まりを作って、脳梗塞や心筋梗塞といった重大な病気の原因になることがあります。
そこで、血液には凝固を防ぐための成分も含まれています。その代表的なものが、プラスミンという物質です。
血液中に十分なプラスミンが存在していると、動脈硬化は起こりにくいし、いったん進行してしまった動脈硬化も、ある程度回復させることが出来ます。
プラスミンは肝臓で作られて血液中に出てくるのですが、心拍数があるレベルになると、生産が高まることが知られています。そのレベルとうのが毎分140〜150回程度。まさに快適なランニングを楽しんでいるときの心拍数です。
つまり、ランニング中の肝臓は、血管を若返らせる成分をどんどん作り出していることになります。
だからこそ、ランナーの血管は、普通のの人に比べて10歳も若々しいのです。
(ただし、これはあくまで平均値の話で、すべての人に当てはまるとは限りませんと注釈がついていました。)ーーー解説/渡辺雅之東京学芸大学助教授より抜粋
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4.5汗かきと汗をかかない人の違いは?
私は汗かきです。あまり汗をかかない人と、身体機能的にどんな違いがあるのでしょうか?。
また大量の汗をかいて水分だけを補給すると、体内の塩分濃度が低くなると聞きました。これは身体にどんな影響を及ぼすのでしょうか?。
・汗かきの人は水分の他に塩分補給も心がけましょう!。
発汗は過度の体温上昇を防ぐためには必要な機能ですが、同時に水分や塩分を失うという犠牲を伴います。
塩分は細胞の浸透圧調整、水分や酸、塩基のバランス保持、神経の興奮や筋収縮の調整などに重要な役割を果たしていますから、大量に汗をかいた場合には水分と一緒に塩分を補給する必要があります。
大量に汗をかいて水分だけを補給すると、血液が希釈されるため、身体がそれを防ごうとして飲水量を制限してしまい、実際に身体に必要なだけの水量が得られず脱水状態が継続してしまいます。
また塩分が極端に不足した場合には、筋のケイレン、耳鳴り、めまい、吐き気等の症状(熱ケイレン症状)が起きて危険な状態になることがあります。このようなことがないように汗かきの人は水分に加えて塩分を補給した方が良いと考えられます。
塩分の補給方法としては、市販されているスポーツ飲料を利用したり、普段より塩分の高い食事を心がけるとよいでしょう。また運動後だけでなく、運動前や、運動中にも冷えた水、あるいはスポーツ飲料を頻回に少量ずつ飲むことが望ましいのです。
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4.6最も効率よく体脂肪を減らすには、毛細血管を発達させること
何とか体脂肪を減らしたい。そう思ったら、まず半年から1年はかけるプランを組むことです。急激に減らした脂肪ほどリバンドし、以前にもまして脂肪をため込みやすい体質になる可能性があるからです。ではどうやって体脂肪を減らせばよいのか、それは有酸素運動を持続することしかありません。有酸素運動を続けて、脂肪を燃やし、脂肪のあったところに筋肉を育てていくことしかないのです。有酸素運動を持続し、少しずつ筋肉がついてくると、筋肉細胞は酸素と栄養を補給して貰うために、次々と新しい毛細血管網をつくりはじめます。そしてその毛細血管で運ばれてくる酸素がさらに効率的に脂肪を燃やすというメカニズムができあがります。こんなふうに毛細血管が全身に発達するようになるまでが、半年から1年。着実に、確実に体脂肪が燃やされ、筋肉の発達のおかげで脂肪がたまりにくい体質になった時には、運動を始める前と比べて、なんと、あなたの体のなかで毛細血管が30〜50倍にも伸びているはずです。毛細血管は運動をしなければすぐに退化し始め、運動を続けていると、裏切ることなく事無く発達してくるそうです。
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4.7ランナーは風邪をひきやすい?!
・風邪がランナーを狙う3つの条件
次のような条件がそろいやすく、一般の人の生活状態に比べ、ランナーは風邪に注意する必要がある。
- 乾燥した空気を激しく大量に取り込むため、気道(空気の通り道)
の粘膜を痛めやすく、ウイルスが侵入しやすい。
- ランニングでかいた汗で身体が冷やされる。
- 疲労が蓄積すると身体の抵抗力が落ちてくる。
・ランナー流風邪の予防
- 疲労回復に努める事
栄養補給をしっかり行い、マッサージ、ストレッチで筋肉のコンディションを良好に保ち、日常生活での疲労感を少なくしていきます。
疲労が蓄積した状態では免疫力、特にウイルス感染を防ぐ抗体の能力が確実に低下しています。
特に、強化・走り込みの仕上げの段階では追い込み過ぎないことです。疲労感が少ないときは、負荷が弱すぎるとばかり考えてはいけません。
- 精神的な緊張感を適度に保つこと。
経験的に、精神的な緊張がどっと取れた後に体調を崩しやすいことは知られています。
目標としていたレースの後には、身体をリラックスさせ、精神をリフレッシュすることが大切ですが、緊張感をゼロにしてしまうと「風邪」にも掛かりやすくなるでしょう。
- 練習前中後のうがい、外出後手洗いの励行。
ウイルスがのどの粘膜に着いてから侵入するまでの時間は短いので、うがいの効果を疑問視する声もありますが、のどの乾燥を防ぎ、粘膜を痛めないためにも行っておくほうがよいでしょう。
手洗いも、手は無意識のうちあらゆる所に触れて、ウイルスや細菌の移動の手助けをしているような物ですから、清潔を保つことは重要です。
- 汗で身体を冷やさないように注意する事。
冬場のトレーニングでは、かいた汗で身体が冷やされることになります。LSDではそれを見越して保温性がよく、汗を蒸発させやすい素材のウエアを選びます。手袋。帽子など、身体の末端からの冷却を防止するグッズも効果的です。
- ビタミン類、野菜類を積極的にとること。
ビタミンCが風邪の予防に効果的と言われていますが、確定的ではありません。
風邪をひいたときにはビタミン類の注射が快復を早める効果はあるようですが、食事で十分に補っておくことが基本です。
- 水分を十分に取ること。
乾燥した空気を呼吸していると、呼吸によって水分が失われて、自然に脱水状態になりがちです。
水分補給は直接身体を暖めるためにも温かい飲み物で少しずつ頻繁にとるのが良いでしょう。
- 室内の湿度を低くしないこと。
冬期の太平洋側の地方での湿度は20%程度まで下がります。室内が乾燥していると、特に睡眠中には唾液の分泌が少なくなるので、ノドが乾燥してしまいます。
枕もとや室内に洗濯物やぬれタオルをかけるなどして、湿度は50%以上に保てるようにしましょう。
- たばこ、ストーブなどで空気を汚くしないこと、換気は行うこと。
自分からたばこを吸うのは論外ですが、他人のたばこの煙を吸っても呼吸器の粘膜に与える悪影響は同じ事です。閉めきった部屋の中でガス、灯油のストーブをたくと発生する一酸化炭素などの物質も同じです。1〜2時間に1回の換気は行いましょう。
- 自律神経を鍛える。
血液循環と体温調節を行っている自律神経の働きをスムーズにし、安定させるために、乾布摩擦などの刺激を加えるのも効果的です。これもトレーニングの一種ですから、体調の悪いときには無理に行っても逆効果です。入浴時に「水」と「お湯」の桶に2〜3回交互に足をつけて刺激する方法もあります。
- 体幹部、手足の先の保温に努める。
日常生活では、すきま風の通らない保温性に優れた下着を着ます。
手袋や厚めの靴下を使用して、末端からの冷えを防ぎましょう。一枚余分に着ていて、暑ければぬぐように心がけましょう。
- マスクの使用は、感染予防に効果があります。
普通のマスクにはせきでまき散らされるウイルスを止める力はありませんが、呼吸によりウイルスを吸い込まないように防ぐ効果はあります。マスクは厚めで大きい物を選び、湿らせたガーゼを挟んでおきます。頻繁に洗って取り替えましょう。
・熱い生姜湯(しゅうがゆ)で風邪知らず
風邪を防ぐ食品と言ったらなんといっても生姜です。ゾクッと寒気を感じるようなとき、生姜のおろし汁に熱い湯を注ぎ、砂糖を入れて飲みます。
生姜は身近な料理の素材であると同時に、漢方薬に使われる生薬でもあります。風邪に効く葛根湯という漢方薬がありますが、これにも生姜が含まれています。つまり生姜は薬なのです。
その薬効も解明されていて、殺菌作用や身体を内部から暖める作用のあることが分かっています
。
つゆに生姜のおろし汁を加えた熱いうどんやそばなどは冬のお勧め料理です。身体の芯から暖まって、風邪の予防に効果的です。
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4.8、熱中症で人が倒れたら
・まず日陰で身体を冷やすこと。回復しない場合は救急車を
医者が「熱射病」と診断する本物の「熱射病」は大変重篤なものです。素人の手におえるものではありません。幸いなことに、夏のロードレースなどで「熱射病で倒れたランナー」の大半は「本物」ではなく、軽症で回復可能なものです。ほとんどの場合脱水を伴っています。体温が上昇して調節不能となっているわけですから、とにかく冷やしてください。陰に寝かせてうちわであおいで、水をかけてください。氷や冷たいタオルがあれば、それを、脇の下やそけい部に当ててやると能率良く冷やすことが出来ます。意識がはっきりすればむせないよう水を飲ましてあげてください。多くの場合数分で軽快するものですが、すぐには動かず、しばらく安静を保った方がより安全です。
回復しない場合や前述のように「本物」かも知れませんから、医者に連絡した方が良いでしょう。
・熱ケイレンとは
「熱ケイレン」は局所の問題で、ランナーでは大腿部やふくらはぎの筋肉によく起こるようです。あまり心配はいりません。発汗による損失を低張液(ただの水)で補う人に起こりやすいといわれています。身体からの危険信号と認識して、運動を中止し、電解質を含んだ等張液(適当なスポーツドリンク)を補給してください。
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4.9、熱中症、脱水症予防は水分の補給
・夏のランニングでは、汗によって大量の水分が失われます。このとき、水分補給が足りないと、体内の水分が不足した状態になり、身体の正常な機能が保てなくなっています。これが脱水症で、ぐったりする、熱が出る、ひどくなると意識がもうろうとする、といった症状が現れます。これに暑さが加わると、身体に熱がこもって熱中症となります。人間の身体は汗をかいて体温を調整しますが、汗をかくための水分が不足すると体温が上がりすぎてしまいます。これはすでに重度の熱中症で特に熱射病と呼ばれています。
脱水症や熱中症を防ぐには、水分補給が最も大切です。走る前に水を飲み、真夏に1時間以上走るときは、途中で給水をするようにしましょう。
LSDなどで大量の汗をかきそうな場合には、スポーツドリンクなように少量の塩分を含んだ水の方が熱ケイレン(熱中症の一種で塩分不足により起こる筋肉のケイレン)を防ぐのに役に立ちます。脱水症や熱中症が起きたら、意識に異常がなければ、涼しい場所で水分を飲ませます。意識がもうろうとしていたり、意識が無い場合は、水分を補給しながら、首の両側、脇の下、脚の付け根などを冷やし、直ぐに病院に運ばなくてはいけません。
効果抜群の飲み物とは
汗をかいたら水分をしっかりとることは今や常識です。しかし、水分なら何でもよいというわけではありません。老廃物と一緒に身体に必須なミネラルも出てしまうため、それらも補う必要があるのです。中でも大切なのがカルシウム。筋肉の収縮に欠かせないカルシウムが不足すると、筋肉がケイレンしやすい状態になります。単純計算では1リットルの汗をかいた場合、失われるミネラル分は5gにもなります。したがって、発汗量の多い夏のランニングでは食事以外からも意識的にミネラルを摂取する必要があるのです。 そこでお勧めするのが塩。といってもナトリウムだけの精製塩では効き目がありません。カルシウムやマグネシウムなどミネラルが豊富な海塩や岩塩など自然塩が理想です。程よく水に薄めて飲みましょう。また、炭酸水もいいですね。乳酸と同じく疲労物質の水素イオンに炭酸が結びついて中和してくれるからです。塩と炭酸水。ランニング後に試してみてください。その効果が分かるはずです。
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4.10、ランニングの死亡事故を考える
緊急企画 『ランニングの死亡事故を考える』
11月に開催されたランニング大会で死亡事故が3件発生した。いずれも死因は心筋梗塞によるものであった。
楽しいはずの大会で起きたあまりに哀しい事故。未然に防ぐために考えるべきこと、備えるべき準備をもう一度見つめなおしたい。
- 起きてしまった2つの事故
3月10日に開催された京都シティハーフマラソンで、会社員の男性Mさん(35歳)が心筋梗塞で死亡した。Mさんはハーフマラソンを1時間39分5秒でゴールした直後に倒れ、救護所で待機していた医師の応急処置を受け、救急車で病院に運ばれたが間もなく息を引き取った。
また、同日開催された熱海湯らっくすマラソンで、5kmの部に出場したホテル従業員の男性Oさん(53歳)が、約2km地点で路上に倒れ込み、近くの病院に収容されたが約1時間後に死亡。死因は同じく心筋梗塞だった。Mさんは年間約10大会に出場するランナー、Oさんも日常的に走っていたという。
- 防止可能な「急死」予測不可能な「突然死」
レースでの死亡事故について考える上で、「急死」と「突然死」とに分けて、正確に定義する必要があるというのが野田晴彦先生(川崎市生涯学習振興事業団)。
『突然死』とは予測をできなかった内因性(事故、自殺、他殺など外因を除いたもの)による急死と定義できます。逆にこれ以外の『急死』は、予測あるいは防止可能であったと考えられるでしょう。
レース中の死亡事故防止を考える上で、この定義は重要だ。健康診断を行っていれば予測可能であった、あるいはすでに血圧や自覚症状で注意していた人の場合は「急死」に分類される。
「まず、ランナー自身にとってできるのは、メディカルチェック等で自分の現状を把握し、安全な運動の範囲を決定し、危険性を予測することによって可能な、『急死』を防ぐことなのです。
逆に大会主催者に要求されるのは、ランナーとともに『急死』を防止する方法に取り組むこと。そして、何ら問題のなかったはずのランナーの身体に偶然起きた、放置すれば死に至る事件が不運にも起きてしまった場合、いかに『突然死』となってしまう段階までに救えるかということになるでしょう。
ランナー自身、そして大会サイドが注意すべきポイントを分けて整理していきたい。
- 24℃以上は危険域 暑さ対策は万全か?
体調管理と十分な給水がカギ。
これからの季節、最も注意したいのが脱水、そしてそれが引き起こす熱中症だ。
「『熱中症予防のための運動指針』によると、気温24℃以上の場合は、積極的に水分補給をして熱中症への「注意」が必要な状態です。さらに28℃以上では危険度が増すため、積極的に休息を入れる必要がある「警戒」。
そして31℃以上の場合は、さらに1ランク厳しい条件の「厳重注意」――激しい運動は中止というレベルになります。
熱中症を起こしやすいのは、最も気温の高い真夏よりも、身体が暑さに慣れていない梅雨の時期。気温がさほど高くなくても、強い日差しを受けて無風状態なら体感温度は真夏並みですし、湿度が高いと汗をかいても蒸発しにくいため、身体が冷やされず熱中症になりやすいことを覚えておいてください」というのは、勝村俊仁先生(東京医科大学教授)。
- 熱中症には、その症状の度合いによって、熱けいれん、熱疲労、熱射病の3段階に分けることができる。
レース中に倒れて意識がない状態は、最も重症の熱射病の段階にある可能性が高く、異常な体温の上昇、循環不全などさまざまな要因から、中枢神経系(脳)、心臓、肝臓、腎臓、筋肉などの臓器障害が引き起こされ、命を落とすケースがあるのだ。
これらを防ぐためには、体調管理をしっかり行い、決して無理をしないこと。また、当然ながら水分の補給を十二分に行うことが最も重要となる。
「スタート前から十分な水分をとっておくべきです。レース中の給水ももちろん大切ですが、すでに脱水状態の身体に飲んでも、胃から吸収できる量は限られています。夜寝ているときにも発汗していることを考えると、レース当日は朝からかなり意識して水分をとるべきです。
本人に自覚はなくても、ウォーミングアップなどでの発汗も加わり、スタート前にはすでに脱水状態が始まっていることもあるのです」
- メディカルチェックで前兆を見逃さない
走っているから大丈夫という保証はない。「一番危険なのは体重が多い人。昔走っていてしばらくブランクがあり、また最近始めた人も、以前のイメージで走れると無理しがちですので注意が必要です。
また、特に40歳を過ぎて中高年になれば、元気で普段全く異常や不安を感じていない場合でも、年に一度は心電図をとるべきでしょう」というのは、本山博信先生(日医ジョガーズ副理事長)。
病院で健康診断として心電図をとることは、今の保険内でも可能。運動中の負荷心電図がとれればなおいいが、そこまでできなくても、異常を察知するためには重要だ。また、長期的な健康管理を考えるなら、体調の変化を如実に表す脈拍をチェックすることも、健康状態のよさを確認する意味では役立つだろう。しかし、逆に心拍数で異常が出るようなら、すでにかなりコンディションが悪い状態になっているともいえる。
「たとえ心電図に異常がなくても、100%事故が防げるということにはなりません。しかし、レースの直前に体調の異常を察知することはむしろ難しい場合もあります。普段から健康管理に対して意識の高い人は、事故や急死に陥る確率がずっと低くなるでしょう」
- 安全に走れる自信がなければ、出場する資格はない「 指導/野田晴彦(川崎市生涯学習振興事業団)」
大会への出場はあくまでも自己責任が基本。ランナーにとってレースにおける安全性とは、今から行おうとすることと、その日の体調から見た相対的なものだと私は考えます。ですから、トップレベルだろうが、ファンランレベルのランナーだろうが、相対的なものである以上、本人の意識次第では「誰にでも危険はある」と考えるべきなのです。
レースに臨む心構えとして、例えば学芸会をイメージしてはいかがでしょうか。運動会と考えてしまうと、競走とか、危険だとかといった発想が生まれます。しかし、学芸会のような発表の場と考えることで、レベルに関わらず、みっともないところは見せたくないという気持ちを持つべきではないでしょうか。そういう意味で、「プライドを持って走る」ランナーになってほしいと思います。
大会側が安全な場を提供し、「突然死」のような不測の事態に備えるのは当然の義務ですが、逆に言うと、ランナー自身も自分の健康問題で大会に迷惑をかけないと言い切れないような人は、大会に出る資格はないと思います。
- 体調チェックで自分にうそをつかない
ランナーがレースでの「急死」を自ら防ぐために大切なのは、「安全に走り切れる自信がある」と正直に言えるかどうかではないかと思います。ただし、それは単に本人の思い過ごしの場合もあるので、何らかの形でチェックは必要かもしれません。しかし、最終的には人に判断してもらうのではなく、自分の判断が一番正しいと考えるべきではないでしょうか。
私の意見ですが、レース(大会)の基本は「楽しく安全に走る」ということだと思います。
その基本さえ守れれば、自分の体調がよければ記録を狙う、あるいは順位を狙うなど、オプションとして自分なりの楽しみ方を付け足していけるのだと思います。軽いノリで参加するのも結構ですが、それがレースという場である以上、最低限楽しめるぐらいの体力があってしかるべきでしょう。
下記に提示したチェックシートは、当日の体調をランナー自身に問うことで、自信とプライドを持ってレースに参加できるかを再認識するためのものです。
既往症等についての質問をここでは省いたのは、仮に一度そういう判断をされたとしても、どういう危険があるからどのように避けるべきなのかという対応を講じることが、医師等に相談することで可能だと考えるからです。
あなたの安全を守れるのは、あなたしかいないのです。
- 大会参加者のためのGO/STOP チェックシート
- 1.この大会のためのトレーニングはおおむねクリアできた
GO STOP
- 2.規則正しい生活を送っており、最近体調を崩したことはない
GO STOP
- 3.睡眠不足は特に感じていない
GO STOP
- 4.たばこ、深酒など不健康な習慣とは縁がない/やめた
GO STOP
- 5.大会直前まで特にハードスケジュールではなかった
GO STOP
- 6.健康管理上の問題点は特にない、またはクリアできている
GO STOP
- 7.終わったあとも、ゆっくり休めるスケジュールである
GO STOP
自己評価:上記に1つでもSTOPに該当する項目がある場合は、少なくとも自己ベストを狙うような体調ではないことを自覚しましょう。
自分に正直に評価を行い「安全に楽しく走り切れる」自信がない人は、残念ながらレースに出場する資格はないでしょう。
- チェック時のポイント
このチェックシートは、レース当日にランナー自身が自分の体調と健康を意識してコントロールするための指針です。
簡単に言うと、あなたの体調(とりわけ心臓)が今回のレースを楽しめる状態になっているかに関するものに絞りました。STOPに該当する項目がある場合は、それに対してどういう対応をするのかを考えてください。
レースに出場するかどうか、あるいは出場する場合でも、どういった目的、ペースで走るのかなど、最終的に判断するのはあなた自身です。
2002年ランナーズ7月号「急死を防ぐ、突然死を救う」より
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4.11、ベスト体調でのぞむには
ランニングを行うことは健康の保持増進や快適な生活を送るには欠かせません。
しかし、自分自身の体調を深く認識していないと、身体に大きな負担をかけているのも事実です。
内蔵が疲れてくると体調に大きく影響してきます。
そこでまず、内臓に大きな負担となりうる場合をいくつか上げたいと思います。
- 食後すぐのランニング
- 睡眠不足や二日酔い
- 体脂肪の多いランナー
などです。
食後すぐのランニングは胃や腸などの消化器系の血流量が減り、機能が低下するので腹痛を起こしやすくなります。
睡眠不足や二日酔いの時にランニングを行うとスッキリした感じがするかもしれませんが、身体には大きな負担となります。
また体脂肪を減らすことも内臓への負担を軽減させます。内臓周囲の脂肪を減らすことで機能が向上するからです。
一般的に走り込みをしているランナーや、腹筋、背筋を強化しているランナーは内臓が強いランナーと言えますが、内臓に負担をかけないことが結果として内臓を丈夫にすることにつながります。
これらのことを日々の練習や生活リズムの中で考え、できるだけ内臓に負担をかけないように心がけましょう。
疲労回復を早めるには
疲労がとれない原因と考えられるのは
- スポーツ貧血が考えられます。
ランニングを行うと大量の汗と一緒に鉄分などのミネラルも体外に出てしまいます。
また、衝撃の着地で赤血球が破壊され、貧血になります。
- 過剰なトレーニングによるオーバートレーニング症候群です。
対処法としては1週間ほどの練習軽減、2〜3日の完全休養です。
体調を早く回復する方法ですが、ランニング後、筋肉に蓄積した疲労物質を追い出すには軽く身体を動かした方が効果的です。
クーリングダウン時にストレッチを行うことは筋肉や腱を伸ばし、柔軟性を高めるだけでなく、血流を良くして疲労物質を除去する効果があります。
サウナや入浴(温泉)などは発汗作用により新陳代謝を高める効果があり、静脈血の循環が良くなるので筋肉にたまっていた疲労物質が除去されます。
身体だけではなく心もリラックスできるので疲労回復には効果的です。
また。ランニング以外のスポーツをしてみるのも身体に新しい刺激と発見をもたらし、リフレッシュ効果をもたらしてくれます。
例えば、水泳、エアロビクス、登山、自転車、ウォーキング等です。
また、睡眠時に布団の下に座布団をなどを敷き、足首から膝を心臓よりも高くして睡眠をとります。すると血流が良くなり、疲労回復に効果があります。
2003年ランナーズ1月号より参考
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