新・闘わないプログラマ No.58

禁句


コンピュータシステムの受託開発するときに、そのシステムに名前を付けるのですが、昔は「○×社向け営業支援システム」とか「△◇社向け経理システム」とか、そのまんまの面白くもない名前で呼んでいたのですが、最近は、アメリカあたりの影響か、やたら「開発コードネーム」なるものを付けるのがはやりになっていたりします。
なんかの頭文字を取ってむりやりこじつけたやつとか、こじつけにもなっていない何やらわけのわからんものやら、口に出して言うのも恥ずかしいやつとか、いろいろあって、命名者のセンスが問われるところだったりします。まあ、開発コードネーム自体は、何の開発をやっているか、というようなことを部外者に秘密にするため、ってのがそもそもの発端だと思うのですが、しょっちゅう口にするものだけに、命名には気を遣った方がいいのではないか、と思うわけです。

「今度開発する☆☆社の在庫管理システムだけどさぁ、Σ(シグマ)って開発コードにしようかと思ってるんだけど」
「ば、ばか。『Σ』って言葉は禁句だ」
「へ? なんで?」
「お前、知らんのか? 何年この業界でメシ食っとるんだ?」
「ん? お前と同期じゃんか。もう10数年になるよな。でもなんで『Σ』が禁句なんだ? かっこいいと思ったんだけどなぁ」
「いいかの、お若いの。その言葉、二度と口にするでない。その呪われた言葉を付けた瞬間、そのプロジェクトは必ず失敗に終わるのじゃ」
「『お若いの』って、だからお前と同期だろうが。で、なんで?」
「お前、ほんっっとうに知らないの、あの『Σ計画』を」

と言いつつ、私も「Σ計画」自体がどんなものだったか、もう既に忘却の彼方なんですが(実際仕事で絡んだことが無いし)。通産省が主導して、国内の名だたる会社が参加したプロジェクトで、UNIXをベースに国産の開発環境の構築を目指していたんじゃなかったかな、すいません、よく覚えていません。始まったのが10年くらい前だったでしょうか。
このコラムを書くにあたって資料をひっくり返してみたのですが、もうそんな古い資料、手元に残っていなくて、サーチエンジンでも探してみたけど、概要のようなものが載っているところは見つかりませんでした。やっぱり、Web上でも禁句なんでしょうか??(^^;)
確か、250億円くらいのお金を使って、結局、成果らしきものがなかった、ということだけは覚えているのですが。何年か前の「日経コンピュータ」誌上で、このΣ計画の失敗について大々的に特集していたのは覚えています。これで、通産省から睨まれて、その記事の担当者が飛ばされた、という「噂」はよく聞きましたけど、実際のところはどうだったのでしょうか。
まあ、いずれにしても、この業界で、いまさら役所主導でなんかやったって、うまく行くはずもなく、変な規制とか、じゃまだてをしないで、大人しくしてくれるのが一番だと思うのですが。先週書いた資格制度(情報処理技術者試験)やら、会社に対しても資格というか認定というか、そういうことをやっていますが、いい加減、ああいう下らないことはやめてほしいものです、ただでさえ遅れている日本のこの業界が、そんなわけのわからんもので、ますますとりのこされてしまうだけですから。
というわけで、このギョーカイでは「Σ」という文字は禁句だったりするわけです ←半分冗談ですから、あんまり本気にしないでね。

禁句は禁句でも、社内レベルになると、これはこれでいろいろ変なのがあったりします。

「このライブラリに渡すパラメータさぁ、なんでこんなわけのわからん形してるんだよ。だいたい、ここと、ここと、ここの情報って、必ずおんなじものじゃないのか? なんで三個所も同じ値を指定せにゃならんのだよー、めんどくさい。誰だよー、こんな設計したやつは」
「ば、ばか。それを言っちゃいかん」
「ん、なんでですか?」
「お前、そのライブラリを設計したの誰だか知らんのか? ソースのコメント見てみろよ」
「えーと、ソース、ソース。えーと、新規作成は『S53』だから昭和53年かぁ、えらい古いなぁ、昭和53年って1978年だから、今から20年も前なの? これが作られたのは。で、作成者は・・・・『YAMADA』? この山田って野郎か、こんな訳の分からん設計をしたのは。ところで、この『山田』って誰のことですか?」
「お前なぁ、あの、今あそこに座っている取締役、なんて名前だっけ?」
「え゛、じゃあこれ書いたのって、あの山田取締役?」

なんて話が、メインフレームのシステムにはごろごろしていたりするんですね。うちのところでも、現存している一番古いプログラムって、多分30年くらい前に作られたやつだったりすると思いますが、そういうのに文句を付けるのは勇気が要ります(^^;)

仕事をしていて、時と場合によって禁句になるのが「バグ」という言葉。こっちが客の場合にはいくらでも使えますが、お客さん相手には、当然禁句です。

「君、これバグなんだろ」
「いえ、バグではありません」
「そんなこと言ったって、ああやって、こうやって、そうやると、うまく動かないじゃないか」
「いえ、その場合は、そうやって、ああやって、こうやるとうまくいきます」
「やっぱりバグだよ」
「いえ、見解の相違です」
「困るよ、直してくれよ」
「それは開発見積もりの中には入っていませんから、別料金になります」
「だってバグだろ、無料でやるのが当たり前だろ」
「いえ、バグではありません」

なんていう攻防が繰り広げられるわけですけど、この言を左右して、絶対にバグを認めない、という手法は、世界最大のあのソフトウェア会社が開発した方法で、我々もそれを見習っているわけです :-p

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